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2007.03.31

柳都物語  第59回・そろった方角(1)

【柳都物語 第59回・そろった方角(1)】

 昼休み。
「ちょっとつきあえ」
 おれは、教室からマメオヤジを引っぱり出した。
「どこ行くんだよ?」
「曙公園」
 とりあえず、こいつひとりで十分だ。
 奈美まで連れ出すことは無いだろう。

「こないだ行ったばっかりじゃんよー。怒られんぜ、昼休みに校外出たりしたら」
「いいから来いって」
 こいつ、理絵がいないと急に無精にならねえか?

 うだうだ文句ばっかり垂れるマメオヤジを引きずって、ようやく曙公園に着いた。
 真っ直ぐ方角石に向かう。
曙公園/方角石  雪はすっかり解けてたけど、方角石も周りのインターロッキングブロックも濡れて光ってる。
 おれは濡れたインターに座りこむと、方角石をハンカチで拭いた。
「何やってんの、尚樹? 何かのマジナイ?」
「待てって」
 おれは、ポケットからトレペを出して広げた。
 トレペには、紙を四等分するみたいに大きな十字が描いてあって、その十字の先のひとつは、『北』を示す「4」の字になってる。
「何しようってんだよ?」
「おまえは、この磁石を石の真上で持っててくれればいい」
 おれはマメオヤジに方位磁石を渡した。
「そんな上じゃねえよ。石のすぐ上」
「あれ? 尚樹、この磁石くるってるぜ。石の方角と合ってないじゃん」
「逆。くるってんのは、石の方だ」
 マメオヤジの持つ磁石の下にトレペを差しこみ、十字の中心を方角石の中心に合わせる。
 そして方位磁石を真上からのぞき込もうとしたら………。
「いてっ」
「あいてっ」
 頭と頭がぶつかった。
「頭引っこめろよ。手だけ出してりゃいいの」
「へいへい」
 トレペを回しながら、『北』を示す矢印を磁石の北と慎重に合わせてく。
「揺らすなって!」
「手ぇ、ふるえちゃって」
「アル中か、おめーは」
 住吉神社では、トレペが風にあおられて、磁石の北とトレペの北を合わせるのに、ちょっと苦労した。
 それで今回、マメオヤジを引っぱり出したってわけ。
「よし、合った。磁石置いていいから、紙押さえてて。動かすなよ」
 定規を、トレペの下で透けて見える方角石の『北』の線に合わせる。
 定規にラインマーカーをあてて、十字の中心からトレペの縁まで線を引いた。
 勢いよく引きすぎて、方角石の上までマーカーがついちまった。
「やべ」
 あわててハンカチでこする。
 ハンカチはもうぐちゃぐちゃだ。
 また母親に怒られんぜ。
「にいちゃんたち、どうしたんだ? こんなとこ座りこんで」
 振り向くと、ジイさまが、濡れたインターに座りこんだおれたちを不思議そうな顔で見下ろしてた。
曙公園/方角石のある広場  いつの間にか、まわりに鳩も集まってる。
「えっと、宿題です。総合学習の」
 マメオヤジが下手くそな言い訳をした。
「『ソーゴーガクシュー』とは何じゃ?」
「地域の歴史とか、勉強するんです」
「ほー。大変じゃのう、最近の小学生は」
「ええまあ」
「手伝おうか? このあたりの歴史のことなら詳しいぞ」
「い、いいです。もう終わりましたから」
「若いもんが、遠慮なんぞするもんでねえ」
 おれはマメオヤジを肘でつついた。
 おめーが余計なこと言うからだろ。
 どうやって断ろうかと困ってたら、後ろから別の声がした。
「これ、ジイちゃん! まーた、若いもんにからかって。ほれ、早よう来なっせ!」
 見ると、ジイさまと同じくらいの歳のバアさまだった。
 たぶん夫婦なんだろう。
 ジイさまは、おれたちに向かってニターッと笑うと、ようやく離れてった。
 ったく。
 下町(しもまち)のジジイは油断ならねえぜ。
「アブねージジイだったな」
「おめーが、変な言い訳すっからだろ」
「しかたねえじゃん。とっさの判断ってやつ。それよか説明してくれよ。何なんだよ、石がくるってるってのは?」

【次回投稿は4月14日の予定です】→柳都物語「第60回・そろった方角(2)

緑亥館通信「柳都物語・第59回について
物産コーナー「『第59回・そろった方角(1)』の巻

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