柳都物語 第59回・そろった方角(1)
【柳都物語 第59回・そろった方角(1)】
昼休み。
「ちょっとつきあえ」
おれは、教室からマメオヤジを引っぱり出した。
「どこ行くんだよ?」
「曙公園」
とりあえず、こいつひとりで十分だ。
奈美まで連れ出すことは無いだろう。
「こないだ行ったばっかりじゃんよー。怒られんぜ、昼休みに校外出たりしたら」
「いいから来いって」
こいつ、理絵がいないと急に無精にならねえか?
うだうだ文句ばっかり垂れるマメオヤジを引きずって、ようやく曙公園に着いた。
真っ直ぐ方角石に向かう。
雪はすっかり解けてたけど、方角石も周りのインターロッキングブロックも濡れて光ってる。
おれは濡れたインターに座りこむと、方角石をハンカチで拭いた。
「何やってんの、尚樹? 何かのマジナイ?」
「待てって」
おれは、ポケットからトレペを出して広げた。
トレペには、紙を四等分するみたいに大きな十字が描いてあって、その十字の先のひとつは、『北』を示す「4」の字になってる。
「何しようってんだよ?」
「おまえは、この磁石を石の真上で持っててくれればいい」
おれはマメオヤジに方位磁石を渡した。
「そんな上じゃねえよ。石のすぐ上」
「あれ? 尚樹、この磁石くるってるぜ。石の方角と合ってないじゃん」
「逆。くるってんのは、石の方だ」
マメオヤジの持つ磁石の下にトレペを差しこみ、十字の中心を方角石の中心に合わせる。
そして方位磁石を真上からのぞき込もうとしたら………。
「いてっ」
「あいてっ」
頭と頭がぶつかった。
「頭引っこめろよ。手だけ出してりゃいいの」
「へいへい」
トレペを回しながら、『北』を示す矢印を磁石の北と慎重に合わせてく。
「揺らすなって!」
「手ぇ、ふるえちゃって」
「アル中か、おめーは」
住吉神社では、トレペが風にあおられて、磁石の北とトレペの北を合わせるのに、ちょっと苦労した。
それで今回、マメオヤジを引っぱり出したってわけ。
「よし、合った。磁石置いていいから、紙押さえてて。動かすなよ」
定規を、トレペの下で透けて見える方角石の『北』の線に合わせる。
定規にラインマーカーをあてて、十字の中心からトレペの縁まで線を引いた。
勢いよく引きすぎて、方角石の上までマーカーがついちまった。
「やべ」
あわててハンカチでこする。
ハンカチはもうぐちゃぐちゃだ。
また母親に怒られんぜ。
「にいちゃんたち、どうしたんだ? こんなとこ座りこんで」
振り向くと、ジイさまが、濡れたインターに座りこんだおれたちを不思議そうな顔で見下ろしてた。
いつの間にか、まわりに鳩も集まってる。
「えっと、宿題です。総合学習の」
マメオヤジが下手くそな言い訳をした。
「『ソーゴーガクシュー』とは何じゃ?」
「地域の歴史とか、勉強するんです」
「ほー。大変じゃのう、最近の小学生は」
「ええまあ」
「手伝おうか? このあたりの歴史のことなら詳しいぞ」
「い、いいです。もう終わりましたから」
「若いもんが、遠慮なんぞするもんでねえ」
おれはマメオヤジを肘でつついた。
おめーが余計なこと言うからだろ。
どうやって断ろうかと困ってたら、後ろから別の声がした。
「これ、ジイちゃん! まーた、若いもんにからかって。ほれ、早よう来なっせ!」
見ると、ジイさまと同じくらいの歳のバアさまだった。
たぶん夫婦なんだろう。
ジイさまは、おれたちに向かってニターッと笑うと、ようやく離れてった。
ったく。
下町(しもまち)のジジイは油断ならねえぜ。
「アブねージジイだったな」
「おめーが、変な言い訳すっからだろ」
「しかたねえじゃん。とっさの判断ってやつ。それよか説明してくれよ。何なんだよ、石がくるってるってのは?」
【次回投稿は4月14日の予定です】→柳都物語「第60回・そろった方角(2)」
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