柳都物語 第58回・赤い光と黒いうず
【柳都物語 第58回・赤い光と黒いうず】
住吉神社から走りっぱなしで学校前の通りまで出たら、みんなまだのんびりと歩いてた。
くっそー、こんなに走って損したぜ。
どっと疲れが出た。
重たい足を引きずって教室を入ると、何やら騒ぎになってた。
男子の輪の中で、中村がツバを飛ばしながら喋ってる。
「マジだって。おれも見たんだよ、赤い光。てっきり斉藤のホラ話だと思ってたんだけどさ」
「どこでだよ?」
「それがさ、学校の前の道」
「やっぱりふたつ並んでた?」
斉藤が聞いた。
「並んでた並んでた。道路の上をさ、ふたつ並んで、こーんな感じで動いてった」
そう言いながら中村は、腕をヘビみたいにくねらせた。
「でも不思議なんだよな」
「何が?」
「車の中から見たんだよ。父ちゃんが運転しててさ。おれが助手席で、母ちゃんが後ろに乗ってたんだ」
「それのどこが不思議なんだよ」
「おれにしか見えなかったんだよ。おれが指さして大騒ぎしてんのに、2人ともきょとんとしてさ。ライトの先で、まるで車を先導するみたいに、ふたつ並んで動いてんのにだぜ」
「何でおまえにしか見えねえんだよ?」
「わかるかよ。しまいにゃ父ちゃんは怒りだすし、母ちゃんは目医者行けって言うしよ」
「暗示ってやつじゃねえの? 斉藤の話聞いてたからそんなのが見えたとかさ」
マメオヤジが口をはさんだ。
「何で、おれが斉藤なんかの暗示にかかんなきゃなんねえんだよ?」
「なんかとは何だよ。こっちだって、おめーに暗示かけようとしてしゃべったわけじゃねえよ」
斉藤と中村がにらみ合ったところへ、マメオヤジが割って入った。
「まーまー、ご両人。ケンカは無しですぜ、こんなこって」
「こんなことって何だよ」
「そーいえば、もともとおめーが暗示とか言いだしたからじゃねえか!」
斉藤と中村に詰め寄られたマメオヤジは、「こりゃまた失礼いたしましたっ」と言いながら逃げてった。
それっきり男子の輪は解けちまったけど、おれは妙にその「赤い光」ってのが気になった。
初めに斉藤が赤い光を見たのは、確かおとといの夜だ(「第50回・赤い光」)。
おとといっていえば、どっべり坂の上から「黒いうず」を目撃した日だろ。
西消防署のアンテナとカトリック教会の十字架にからまって、そのあと真下の地面に吸いこまれてった、あの「黒いうず」。
「赤い光」と「黒いうず」………。
ひょっとして何か関係があるんじゃねえのか?
「龍!」
そう叫んだ理絵の声が耳によみがえった。
そういえば理絵は?
もう始業のチャイムが鳴る時間だったけど、理絵の姿はまだ見えなかった。
今日も休みか………。
「尚樹」
急に耳元でささやかれて飛びあがりそうになった。
振り向くと奈美だった。
「何だよ! いきなり」
「大きな声出さないでよ」
「おまえが驚かすからだろ」
「こんなくらいで驚く方がおかしいわよ」
「ケンカ売ってんのかよ」
「それはあんたでしょ。って、そうじゃなくて」
奈美はまた小声にもどった。
「理絵ちゃん、見てない?」
おれは首を横に振った。
「じゃあ、今日も休みか………」
「みたいだな」
「夕べ、あれから考えたんだけどさ」
「何を?」
「やっぱり、石川県の病院に行ったってのはおかしいと思うのよ」
「何で?」
「だって、普通そんな時、おかあさんがついていくんじゃないの? だけど、おかあさんは家にいたのよ」
「じゃあ、おとうさんがついてったんだろ。ていうか、おとうさんがクルマ運転してったんじゃねえの?」
「なら、何でおかあさんもいっしょに行かないのよ?」
「2人してついてくことねえだろ」
「あたしなら、やだな」
「何が?」
「おとうさんが病院に付き添ってくるなんてさ」
「何で?」
「年頃のレディなら、みんなそうよ」
そんなもんかあ?
奈美は一人っ子のせいか、すげーおとうさん子で、小さいときは「パパ、パパ」っていつもくっついてたから、ちょっと意外な気がした。
チャイムが鳴って天津が入ってきた。
やっぱり今日も、理絵は休みだった。
【次回投稿は3月31日の予定です】→柳都物語「第59回・そろった方角(1)」
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