柳都物語 第53回・単独調査
【柳都物語 第53回・単独調査】
放課後。
おれは、ひとりで住吉神社に行った。
いくら地図だけにらんでても、何も思いつかないってことがよくわかったからだ。
2時間ドラマなんかで、ベテラン刑事がよく言うだろ。
「迷ったら現場に戻れ」ってやつだ。
何でひとりで来たのかって?
奈美は、麻美子たちと一緒に理絵の見舞いに行っちまっただろ。
マメオヤジを連れて来ようかと思ったんだけど、あのバカ、終わりの挨拶のあと、あっという間に消えちまいやがった。
まさか女子どもにくっついて、理絵んちまで行ったんじゃねえだろうな?
そんなんで、おれひとりで来たってわけ。
まあいいさ。
マメオヤジなんかと一緒だと、話が脇道にそれるばっかしで、ちっとも前に進まねえからな。
ここは、おれひとりでじっくり考えて、あいつらがビックリするような答え、見つけてやろうじゃないの。
え?
方角石のある「現場」は4つもあるのに、何で住吉神社に来たのかって?
確かにな。
おれたちを悩ませてるのは、4つの方角石がつくる不思議な三角形の謎だ。
三角形の頂点Aにあたる、ここ住吉神社。
底辺BCの両端には、白山公園と水戸教公園。
そして、頂点Aから底辺BCに垂直に引いた直線(つまり三角形の「高さ」の線)が、底辺とぶつかったところにある曙公園。
方角石がある「現場」は、以上の4カ所。
そん中でも、何たって住吉神社は、三角形の頂点Aだかんな。
頂点だぜ、頂点。
一等あやしい「現場」ってわけだろ。
第一容疑者ってやつ?
順番からいっても、やっぱAからだし。
それにここ、学校から一番近いしな………。
神社の階段は、おとといの雪がまだ消えてなかった。
手すりにつかまりながら登る。
あれ?
何かこのシチュエーション、前にもあったような………。
変だな。
この神社は、日曜に一度来たっきりだぜ(「第24回・住吉神社」)。
あんときは、4人一緒だった。
でも、何かひとりでこの階段を登ったような気が………。
『デジャビュ』ってやつ?
あっ、そうか。
階段の先に見える屋根で思い出した。
夢で見たんだ………。
あの夢はたしか、どっべり坂を登ってたのが、途中から住吉神社に変わってた。
理絵が、階段の下から見上げてた………。
おれは、思わず後ろを振り向いた。
もちろん、階段下には誰の姿も無い。
何やってんだ、おれは。
握った手すりに力を込めると、おれは階段を2段飛ばしに駆けあがった。
登りきった頂上は、社(やしろ)のまわりにも、まだ雪が残ってた。
でも、ここの方角石は厚さが30㎝くらいあるから、雪に埋もれてはいない。
表面の雪はもう解けてた。
つまり、この石が地震で回ったかどうか、証拠は残ってないってわけ………。
いきなり手掛かり無しかよ。
「現場」に戻ってはみたものの、やっぱ何も思いつかねえ。
猫の額みたいな境内(境内って言うのか、これも?)は、立ってる場所から全部が見わたせる。
町内会の物置小屋みたいな、ちっちゃな社(やしろ)。
おれの足元には、方角石と並んで、やっぱり石でできた四角いマスみたいなもん。
これって、神社によくある、手を洗ったり水を飲んだりするやつだろ?
でも、ここのは水が入ってなくて、中は空っぽだ。
まあ、こんなプリンのてっぺんみたいな所に、水道なんか来てねえだろうしな。
あとは、墓石、じゃねえな、石碑ってやつか、そいつが3つ並んでる。
プリンの上にあんのは、こんだけだ。
さーて、こっからどうする?
仕方なくおれは、神社から見える景色に視線を移した。
狭いんだけど、見晴らしだけはいい所だよな。
海の方を見ると、新日和山の展望台にカラスが留まってるのが見えた。
展望台から、何気なく足元の方角石に目を落としたおれは、背中から水を浴びせられたような気がした。
「南? そんなわきゃねえだろ」
【次回投稿は1月20日の予定です】→柳都物語「第54回・くるった方角」
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