柳都物語 第50回・赤い光
【柳都物語 第50回・赤い光】
階段を2段飛ばしに登って、教室に飛びこむ。
ぎりぎりセーフだった。
ランドセルを降ろしながら、理絵の席を横目で確かめた。
理絵の姿は見えない。
席に座ると、すぐに天津が入ってきた。
「きりーつ!」
ったく、座ったり立ったり忙しいぜ。
挨拶のあと天津は、「菊池は風邪で休みだそうだ」って言った。
おれは少しだけホッとした。
きのうの今日で、どんな顔して口きいたらいいのか分かんなかったから。
昼休み。
「だから、赤い光がふたつ並んでんだよ。そいつがさ、並んだままスーって動いてったんだぜ」
机に座ったまま例の三角形の謎を考えてると、斉藤の声が耳に入ってきた。
斉藤ってのは、今朝母親が言ってた「出来る子」が集まる塾に通ってるってやつだ。
まあ確かに、男子の中じゃあ一番「出来る」けど、奈美には全然かなわない。
斉藤は、中学年のころから奈美をライバルだと思ってるみたいなんだけど、奈美の方では鼻も引っかけないって感じだった。
それが高学年になったら、体格でも圧倒的にかなわなくなっちまった。
おれは密かに、斉藤には同情してたんだ。
せめて勉強だけでも勝ちたいと思ったんだろうな。
それで塾なんか………。
その斉藤が、数人のギャラリーを前にして、大げさな身ぶりでしゃべってる。
「何時ごろ?」
「9時ちょっと前かな。塾の帰りでさ」
げ。
そんな時間までかかんのかよ。
野球中継が終わっちまうじゃねえか。
絶対行かねーぞ、そんな塾。
「ひょっとして、UFO?」
「違うって。空じゃねえんだよ。地面。道路の上。でも、動き方は本当にUFOって感じだった」
「どこでだよ?」
「ほら、西大畑公園の前から広小路へ抜ける道があんだろ。その道の上を、赤い光がふたつ並んで、スーっとだぜ」
「車のテールランプじゃねえの?」
「違うって。車なんか走ってねえんだって。それに、道路に貼りついて光ってたんだぜ」
「ネオンが映ってたとか?」
「バーカ。あの道の両側、お寺と保育園じゃねえかよ。何でネオンが映るんだよ。そういう何かが映ったみたいな光じゃねえんだって」
「何かが映ったんじゃなきゃ、道路がひとりでに光ってたってこと?」
「そうだよ。いや、そうじゃねえな。なんか、地面の下に光源があって、それが道路の上まで漏れてるって感じだった」
「それじゃその光、アスファルトを突き抜けて見えたってわけ?」
「そういうことじゃねえの」
「下水道工事かな?」
「夜の9時だぜ」
「地面の下なら、昼も夜も関係ねえんじゃねえの?」
「そりゃそうだけど………。あのな、そもそも下水道工事だとしても、あんなアスファルト突き抜けてくるみたいなものすげー光、使うわけねえだろ」
「何で?」
「何でって、そんな光使ったら、まぶしくてしょうがねえじゃねえか」
「ははは。地面の下でサングラスかけてたりしてな」
また斉藤のホラ話かと思って聞いていたけど、何か引っかかった。
「尚樹、おい尚樹」
「え?」
おれかよ。
引っかかるのが何なのか考えてたおれは、急に話を振られて面食らった。
「おまえんちのとーちゃん、建設会社だったよな?」
「そうだけど」
「何か聞いてねえ? 西大畑公園前の道路のこと。下水道工事やってるとかさ」
「全然。おやじの会社、建築系だからな」
「じゃさ、アスファルト突き抜けてくるみたいな、ものすげーライトのこととか聞いてねえ?」
「全く。それよか、その光だけどさ、どっちの方から来たんだ?」
「そう言われてもなあ。気がついたら見えてたからな。そんでも、お寺の前から広小路の方に向かってったぜ。それがどうかしたの?」
「いや、別に………」
そうか。
同じ日の夜なんだよな。
おれたちが黒いうずを見た日の夜だ。
黒いうずと赤い光。
ひょっとしてこれ、何か関係ありってことも………。
【次回投稿は12月9日の予定です】→柳都物語「第51回・謎だらけ」
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