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2006.11.11

柳都物語  第49回・日常っていう朝

【柳都物語 第49回・日常っていう朝】

「ナ…オ…キ…」
 誰かが呼んでる。
「な…おき」
 誰…?
「尚樹」
 何?
「尚樹ってば!」
 だから、何だよ。
 そんなに呼ばなくたって、聞こえてるって。

 おれは、声の方を振り向いた。
 目の前にでっかい洞穴が見える。
 教会にあった岩の洞穴か?
 変だな。
 穴が2つ並んでる。
 と思ったら、その下にもう1つ大きな洞穴が開いた。
 そしてその洞穴から………
「いつまで寝てんのよ、あんたは!」
「うわっ」
 目の前にあったのは、パンパンに膨らんだ顔だった。
「何そんなに驚いてんのよ」
 姉貴だ。
「何で勝手に人の部屋入ってくんだよ」
「あんたが全然起きないからでしょ、部屋の外から呼んでも。おかあさん、怒ってたよ」
「もう起きたから、出てけよ」
「あんたさ、ヘンな夢見てたんじゃないの?」
「何でだよ」
「なーんかさ、すっごい切なそーな顔しちゃってさ。笑っちゃった」
「うるせー! 早く出てけ!」
 くっそー。
 寝覚めにとんでもねえもん見たぜ。
【資料画像】  ベッドに起きあがってからも、何か忘れ物してるような気がしてならなかった。
 何だっけ?
 そうだ、夢だ。
 夢を見てたんだ。
 理絵の夢………。
 理絵のいた夢のことを思い出したら、ほんの少し悲しいみたいな気持ちになった。
 あいつの夢なんか見たのはじめてだ。
 やっぱ、強烈だったからな。
 夕べの、あの髪の毛………。
 でも、あれって本当にこの目で見たことだったんだろうか?
 何だか、あのどっべり坂の下から夢が始まってたような気もしてきた。

【資料画像】  茶の間に降りてくと、母親はもう朝飯を食べ終わって新聞を読んでた。
 父親は、今朝も早く出かけたらしい。
「あんた、いつまで寝てんのよ」
「今までだよ」
「相変わらず、口が減らないね」
「いてっ」
 新聞で頭をはたかれた。
「朝くらい、ちゃっちゃと起きなさいよね。あたしは、これを片づけてから会社に行かなきゃなんないんだから」
 姉貴が、手に歯ブラシを持ったまま、フスマの陰から顔をのぞかせた。
「おかあさーん。こいつさ、何かヘンな夢見てたんだよ」
「うるせー! あっち行け!」
「こーんな顔して寝てんだから」
「そんな顔すっかよ!」
「あー、失敗した。携帯で撮っとくんだった」
 箸を投げつけようとしたら、サッと顔引っこめやがった。
 くそー。
 あの女、いつか殺す。
「こらっ。箸なんか振り回してないで、早いとこ食べちゃいなって」
「分かったよ。あ、新聞にさ、変な雲のこととか書いてなかった?」
「クモ? クモって、足がいっぱいある?」
「違うよ。地震雲みたいな雲」
「さあね。隅々まで読んだわけじゃないから。雲がどうかしたの?」
「きのう、ちょっとそんな雲見たから」
「どこで?」
「どっべり坂」
「どっべり坂? 全然帰る方向が逆じゃない」
「ちょっと用があって」
「何用?」
「いいだろ、何だって」
「あんたね、そうして学校帰りにふらふらしてんだったら、塾行きなさいよ、塾。そんくらいのお金、うちだって出せるんだからね。ほら、斉藤くんの通ってる塾、あそこいいんだってよ。そこいら中の小学校から、出来る子が集まってるんだって。あんたも、大畑小みたいな小ちゃい学校の中でだけつき合ってたんじゃ、井の中の蛙になっちゃうよ。男なら、大海に出なさいよ、大海に。少年よ、大志を抱け! 少年老い易く学成り難し、ってなもんよ」
 ………。
 朝から酔っぱらってんじゃねえのか、この女。
「何よ、黙っちゃって。何とか言いなさいよ」
「何とか」
「いてっ」
 また新聞で頭をはたかれた。
「行ってきまーす。尚樹、遅刻するよ」
 玄関から姉貴の声がした。
 やべっ。
 おれは大急ぎで飯をかっこんだ。

【次回投稿は11月25日の予定です】→柳都物語「第50回・赤い光

緑亥館通信「柳都物語・第49回について
物産コーナー「『第49回・日常っていう朝』の巻

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