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2006.10.14

柳都物語  第47回・理絵のいた夢(1)

【柳都物語 第47回・理絵のいた夢(1)】

 その夜、おれは夢を見た。

 井沢くん。
 誰だよ?
 また驚かせちゃった?
 え?
 振り向くと、理絵が坂下から見上げてる。
 アーモンドみたいに大きな目。
 別に驚いてねえよ。
 おれは、じいちゃんちに用があるんだ。

どっべり坂/階段の手すり  木製の手すりにつかまりながら、どっべり坂の階段を登る。
 手すりを支える深緑の支柱を、一つ一つ数えながら登った。
 理絵はまだ見上げてるだろうか?
 なんだか、支柱を一つ数え飛ばしたような気がして、足元が不安になる。
 でも、今さら坂下に戻って数え直すわけにはいかないんだ。
 おれは、上だけ見て登った。
 階段の先に、ようやく屋根が見えてくる。
 登りきると、そこはプリンの上みたいなとこだった。
 猫の額ってやつ?
「ちいせー」
 マメオヤジの声だ。
「これじゃ、神主さんなんかいねえよな」
 マメオヤジが、社(やしろ)の引き戸を開けようとしてる。
 もう片側からは、奈美が引き戸を引いてた。
「尚樹、何してんの。あんたも手伝いなさいよ。本当に、いざってとき役に立たないんだから」
 なんで観音開きじゃないんだ?
 引き戸の合わせ目が、左右に揺れながら迫ってくる。
 うまく隙間に入れるだろうか?
 そうだ、何か差し込んで広げればいいんだ。
「奈美、定規貸して!」
「どうすんのよ?」
「わかんねえのかよ。三角形だろうが」
 頂点Aがここ、住吉神社。
 底辺BCが、白山公園と水戸教公園。
「井沢、こんな問題もわからんのか」
 ちょっと待ってよ。
 だから、頂点Aの住吉神社から、底辺BCに垂直な線を下ろすと………。
 曙公園だ。
 ここまでは分かるんだよな。
 黒板の前に立ちつくしながら、背中がチリチリとむず痒くなった。
 ちぇっ。
 かっこ悪りいな。
 理絵の視線を背中に感じる。
「なんだ、井沢? ひと目ぼれか?」
 教室がどっとわいた。
 そんなんじゃねえや。
 おれは水色のチョークを取ると、黒板に無数の線を引いた。
「これが縦の2本、西堀と東堀です」
「横みたいなんですけど」
「それは、黒板が北を上にして作ってあるからです。そして、これが早川堀」
 チョークがパチッと割れて、目の前に細かい粉が散った。
 雪が真横から吹きつけてくる。
 紺色に暮れてゆく早川堀。
 黄色い街灯が、蛍みたいに灯ってる。
 真冬なのに、蛍………。
 街灯の明かりの中を、雪が真横に吹き抜けてった。
 堀端の柳。
 柳の枝が、生き物みたいに動いてる。
 河渡(こうど)に立つ人影が見える。
 白い着物を着てる。
 赤い袴をはいてる。
 白い着物の背中には、真っ黒い髪が、夜の川みたいに流れてた。
 いくらペダルを踏み込んでも前に進まない。
 タイヤに柳の枝が絡まってる?
 ようやく後ろを通り過ぎようとしたとき、待ってたように人影が振り向いた。
 アーモンドみたいに大きな目。
 また驚かせちゃった?
 別に。
 別に驚いてねえよ。
 よかった。
 え?
 もっとずっとわかってもらえないかと思った。
 そんな分からず屋じゃねえや。

西大畑公園/レンガ広場の鳩 西大畑公園の空には、桜の細い枝先が、人体模型の血管みたいに広がってる。
 ねずみ色の空を背にした理絵の横顔は、肖像画みたいに大人びて見えた。
 石垣の上から見下ろす広場。
 堀沿いに植えられた柳の細枝が、なんだか景色の縫い目みたいだった。
 その枝越しに、ツギハギだらけの広場が見える。  レンガ敷きの広場を、真っ黒い鳩の影が歩いてた。
 ところどころまだらに残る雪を、一つ一つ確かめるみたいに鳩の影が渡っていった。

【次回投稿は10月28日の予定です】→柳都物語「第48回・理絵のいた夢(2)

緑亥館通信「柳都物語・第47回について
物産コーナー「『第47回・理絵のいた夢(1)』の巻

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