柳都物語 第43回・新潟カトリック教会(3)
【柳都物語 第43回・新潟カトリック教会(3)】
「ごめんくださーい」
「礼拝堂で『ごめんください』はねえだろ」
「じゃ、なんて言うのよ?」
「尚樹、こう言うんだよな」
大口を開けかけたマメオヤジの口を、奈美がふさいだ。
「あんた、また『たのもー』なんて言うつもり!」
マメオヤジはフガフガ言ってる。
どうやら図星だったらしい。
「誰かいませんかー」
マメオヤジの口をふさいだまま、奈美は中に呼びかけた。
返事はない。
「入ってみようぜ」
「そうね」
入ったところは、玄関ホールみたいな感じだった。
まあ、おれんちの玄関よりかはずっと広いけど………。
「おじゃましまーす」
「もう、おじゃましちまってるじゃねえか」
「一応、礼儀よ」
やっぱり何の返事もない。
ていうか、目の前にはもう一枚扉が閉まってるから、こんなとこから呼んだって、外からと大して変わんねえだろって感じだ。
「奈美ちゃん」
「なに? 理絵ちゃん」
「山崎くん、もう放してやったら? なんだか苦しそうよ」
「え? あ、そうか。あんた、もう大声出さないわね!」
口をふさがれてた手を解かれて、マメオヤジはハアハア言ってる。
「こ、殺す気かよ!」
「大げさね」
「おれは今、鼻詰まってんだよ!」
目の前に閉まってる扉も、左右2枚が合わさってて、真ん中へんに金色のノブが並んで付いてる。
てことはこれも、真ん中から開く「観音開き」ってことだよな。
でも入口の扉とは違って、上半分が障子みたいな格子になってる。
そしてその格子には、障子紙じゃなくてガラスがはまってた。
ガラスは透明なんだけど、表面には、浮き彫りっていうか、凹凸のある模様がついてる。
だから、そっからのぞいても、中のステンドグラスがにじんで映るばっかしだった。
「ごめんくださーい」
奈美が、もう一度声をかけた。
「だめみたい。どうする?」
「どうするって、ここまで来たら入ってみるっきゃねえだろ」
格子の扉は、おれたちが立ってるところから一段高いところにある。
扉の前には、平たい石段が造りつけてあって、その脇の木箱にスリッパがたくさん詰まってた。
「『お入りになるときはスリッパに履きかえてください』だって」
「なんだ、和風じゃねえかよ。でもこれって、入ってもいいってことだよな?」
「そうよね。それにほら、ここ。『聖堂に入られる際には、携帯電話の電源はお切り下さい』って貼ってあるじゃない? これって、絶対に入ってもいいってことよね?」
「切ったのかよ、電源」
「学校帰りに携帯なんか持ってるわけないじゃないの。禁止されてるんだから」
「デジカメは持ってきてるじゃねえか」
「これは、しかたないでしょ。おじいちゃんに、曙公園で撮った方角石の写真見せたかったんだから」
「わかった、わかった。よし、みんないいか? 入るぞ。怒られたら学年委員の責任」
「何でよ!」
みんながスリッパに履きかえるのを見とどけると、おれはドアノブを回した。
「あれ?」
「どうしたのよ?」
「開かねえんだよ」
いくらノブを引っぱっても、扉はビクともしなかった。
「内鍵が掛かってるってこと?」
「たぶんな」
「尚樹、ひょっとして押すんじゃねえの?」
「押す?」
マメオヤジの言うことなんか当てになんねえとは思ったけど、ほかにどうしようもないんで一応押してみた。
「うわっ」
扉はあっけなく開いた。
どうせ開きっこねえと思って、引いてたときと同じ力で押したから、思わず前につんのめった。
と同時に、段差を踏み越そうとしたスリッパが引っかかる。
次の瞬間、おれは回転レシーブしながら、思い切り中へ転げこんでた。
【次回投稿は9月2日の予定です】→柳都物語「第44回・新潟カトリック教会(4)」
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