柳都物語 第42回・新潟カトリック教会(2)
【柳都物語 第42回・新潟カトリック教会(2)】
岩は、三角おにぎりみたいな形をしてた。
よく見ると、アンコウっていう深海魚の顔にも見える。
顔の向かって右手前から見た感じだ。
岩の左下に、洞窟みたいな穴があいてる。
その洞穴を大きな口だとすると、洞穴の右上、ちょうど魚の左目にあたるあたりに縦長の窪みがあった。
そしてそこには、マリアさんの像が収まってた。
「きれいなマリアさまね」
マリアさんには色がついてた。
顔は肌色をしてる。
白い服を着て、青い帯(?)を垂らしてる。
両手を胸で合わせて、その腕からは数珠みたいなのが下がってた。
まあ、カトリックだから数珠じゃねえんだろうけど。
「おい! これ、岩じゃねえぜ」
岩肌を指で触ってたマメオヤジが、すっとんきょうな声をあげた。
「コンクリートだ」
近づいてよく見ると、ところどころ岩に似せた塗装がはげて、地肌のコンクリートが見えてる。
「造りもんかよ」
さっき一瞬、空から降ってきたのかと思った岩が、一転して造りもんだってわかって、おれたちはあっけに取られた。
「でも、何でこんな岩、わざわざ造ったのかしら?」
「おれに聞くなよ。おまえ、カトリックに詳しかったんじゃねえの?」
「何でよ?」
「カトリックは神父さんとか言ってただろ」
「だから、あれは常識」
「すんませんね、常識がなくて」
「さ、もういいでしょ。結局、何事も無かったってことじゃない?」
「みたいだな。とりあえず引き上げるか」
おれがそう言うと、マメオヤジがマリアさんに向かって柏手を打った。
奈美がその頭をひっぱたいた。
空き地を出て、礼拝堂の脇まで戻ったときだった。
「あれ?」
マメオヤジが立ち止まった。
「またかよ。こんどは何だってんだよ?」
「今、礼拝堂に誰か入ってったぜ。ちらっと後ろ姿だったけど、真っ黒い服着てた」
「神父さんかしら? 行って聞いてみようよ。何か見ませんでしたかって」
奈美はそう言うと、礼拝堂の入口まで走ってった。
「ちょっと、あんたたちも来なさいよ!」
奈美は扉の前で、おれたちに向かってどなった。
「おい、学年委員。いいのかよ、礼拝堂の中まで入って」
「これはジャーナリストのサガよ」
調子出てきたじゃねえか。
「呼び鈴とか無いのかしら?」
「普通、ねえだろ」
「何でよ?」
「カトリックの常識」
入口の扉には、金色のノブがついてた。
扉は左右の2枚が真ん中で合わさってて、その合わせ目のあたりに、それぞれのノブが並んでついてる。
てことはこの扉、真ん中から手前に開くようになってるってことだよな。
つまり、仏壇なんかと同じ観音開きってやつだ。
あ、カトリックだから「観音」開きはねえか。
奈美が扉をノックした。
「そんなことしたって、聞こえっこねえだろ」
「じゃ、どうすんのよ?」
「こうすればいいんじゃねえの?」
マメオヤジはそう言うと、金色のノブに手を伸ばした。
「痛てっ」
マメオヤジは、ノブに触れた手を引っこめると、顔をしかめてブラブラと振った。
「何だよ?」
「静電気かな? ビリッときた」
「やっぱ、雷が落ちたんじゃねえのか?」
「バチが当たったのよ。マリアさまに柏手打ったりするから」
「マリアさんが、あんなことでバチなんか当てるかよ」
そう言いながら、マメオヤジはもう一度ノブに手を伸ばすと、熱い物にさわるみたいに指先で触れた。
今度は何事もなかったらしく、そのままノブを握ると、回しながら手前に引く。
「ほら」
扉はあっけなく開いた。
「今、人が入ってったんだから、鍵なんかかかってねえって」
おれたちは、細めに開けた扉から中をのぞいた。
【次回投稿は8月19日の予定です】→柳都物語「第43回・新潟カトリック教会(3)」
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