« 柳都物語  第40回について | トップページ | 柳都物語  第41回について »

2006.07.22

柳都物語  第41回・新潟カトリック教会(1)

【柳都物語 第41回・新潟カトリック教会(1)】

「ちょっと尚樹、勝手に入ったら叱られるんじゃないの? キリスト教徒でもないのに」
「かまわねえよ。神社やお寺は誰が入ってもいいんだ」
「教会でしょ」
「同じようなもんだろ」

 おれはかまわず足を進めた。
「ちょっとってば!」
「だいじょうぶみたいよ」
「理絵ちゃん、どうして?」
「門のところに書いてあった。どなたでもお入りくださいって」
「ほらみろ」
「何だか不用心ね。こんな子どもが入りこんでるのに」
 そう言いながら、やっと奈美も入ってきた。
 おめーだって、子どもだろ。
 夕暮れの教会には、誰の姿も見えない。
「牧師さんとか、いねえのかな?」
 マメオヤジが、あたりをキョロキョロ見回しながら言った。
「いるわけないでしょ。カトリック教会なんだから」
「なんでだよ?」
「カトリックは神父さんよ。牧師さんがいるのはプロテスタントの教会」
「へー、そうなのかよ。尚樹、知ってた?」
「常識だろ」
「えっ、マジ?」
「なーんてな。知るわけねえだろ、おれが」
 右手に見える駐車場には、何台か車が止まってる。
 でも、人の姿は見えない。
「この様子じゃ、目撃者なしってことみたいね」
 左手には、2階建ての木造校舎みたいな建物があった。
「『信徒会館』だってよ」
 建物の玄関っていうか、入口あたりをのぞき込んでたマメオヤジが言った。
「本当に誰もいねえのかな? 誰かいませんかあ? たのもーっ!」
 マメオヤジが突然大声で怒鳴った。
「あんたって子は!」
 奈美がその襟首をつかんで引きずってくる。
新潟カトリック教会  どっべり坂から見えた礼拝堂は、目の前にそびえてた。
 礼拝堂の上には、2本の尖塔が突き出てる。
 2本の尖塔のてっぺんには、それぞれ十字架が載ってた。
 鉛色の空をバックに、銀の十字架は鈍い光を放ってる。
 まるで、ここでは何事もありませんでしたよって言ってるみたいだった。
 信徒会館の屋根越しに、西消防署のアンテナが空に突き出てる。
「あの消防署のアンテナと、この十字架の真ん中あたりだったよな」
 おれは空を見上げて2点を結び、その真ん中あたりから視線を下におろした。
 礼拝堂の横に、小さな空き地みたいなのが見える。
 黒いうずは、確かそのあたりに吸いこまれてったはずだ。
「あの辺、行ってみようぜ」
「いいのかなあ、こんな奥まで入って………」
「おまえ、新聞記者志望のくせに、そんな弱気でどうすんだよ」
「あたしには、学年委員っていう立場があんのよ」
 空き地の手前には、おれたちの背丈よりちょっと高いくらいの木が一列に植わってた。
 葉がついてるから常緑樹だ。
 一列っていっても、きちんとした垣根になってるわけじゃなくて、スカスカの隙間から空き地が見えてる。
 垣根の切れ目から空き地に入ってみたけど、やっぱり何の痕跡も残ってない。
 まだらに解け残った雪の間から、枯れた芝生がのぞいてるだけだった。
「なーんだ、何にもないじゃない。尚樹、デジカメ返してよ」
 奈美が手の平を出した。
「何だ、ありゃ?」
 マメオヤジが、何か見つけたらしく走り出した。
「またかよ」
新潟カトリック教会/不思議な岩  その背中を目で追うと、空き地の奥にでっかい岩みたいなのが見えた。
「あの岩、さっき落っこちてきたんじゃないわよね?」
「まさかだろ」
 おれたちもマメオヤジの後を追った。
「あれ? ツタがからまってる」
「てことは………」
「ずっと前からここにある、ってことよね」
「だな」
 たぶん夏は、ツタの葉で岩が見えなくなるんじゃねえか。
「あれって、マリアさまよね」
 奈美が、おれから取りあげたデジカメをかまえて言った。
「観音様にゃ見えねえよな」
 マメオヤジはそう言いながら、岩の前にあるツツジの植え込みを回り込んだ。

【次回投稿は8月5日の予定です】→柳都物語「第42回・新潟カトリック教会(2)

緑亥館通信「柳都物語・第41回について
物産コーナー「『第41回・新潟カトリック教会(1)』の巻

|

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/58912/11052258

この記事へのトラックバック一覧です: 柳都物語  第41回・新潟カトリック教会(1):

コメント

コメントを書く