柳都物語 第39回・龍?
【柳都物語 第39回・龍?】
また雷が鳴った。
雷鳴は、坂下の街から、地面の底をはうように響いてきた。
「あ」
雲に目を戻すと、その中心が一瞬ほの白く光った。
「何?」
「光ったんだ、あの雲」
「稲光?」
「違う」
じっと雲を見てると、蛍光灯が点るみたいに、もう一度光った。
「ほら」
そして、また。
雲は、だんだん光る間隔を短くしながら、何度も光った。
「稲光じゃないわね」
「なんだか、雲ん中でライトが点滅してるみたいだな」
マメオヤジはそう言ったけど、あれはライトなんて光りかたじゃない。
その光は、まるで心臓が鼓動するみたいに、ドクンドクンと内側から光った。
「怪獣でも出そうだな」
マメオヤジがおどけた声をあげた。
確かに、古いモノクロ映画で見た怪獣の卵みたいだった。
長く尾を引いた雷が止むと、街はまたシンと静まりかえる。
そのとき、街の底からゴウゴウという音が響いてきた。
「何だ?」
坂下のケヤキが枝をうねらせてる。
「風だ」
突然、坂の下から風が吹き上がってきた。
「うわっ」
風は、思わず階段に背を向けたおれたちの間を、あっという間に吹き抜けてった。
コートのフードが、耳元でばたばたと音を立てる。
よろけた理絵の髪の毛が、おれの頬を打つ。
風は、海に向かって真っ直ぐに抜けてった。
北の空遠く、風にあおられて乱れる鳩の群れが見えた。
ようやく振り返ると、黒雲はさらに強く光ってた。
突然、大きな雷鳴がとどろいた。
奈美がしゃがみ込む。
「あっ」
雲の中心から、真っ黒い煙のうずが下へ伸びてきた。
雲が、また強く光った。
雲が一度光るごとに、真っ黒いうずが下に向かって伸びてくる。
おれの腕をつかんでる理絵の指先に力が入った。
「何なんだ? あれ」
「わからない。でも、絶対に良くないもの」
「NEXT21まで届きそうだぜ」
「もっと近いわ」
黒いうずは、形をうねらせながらNEXT21の手前に降りてきた。
「消防署だ」
西消防署のてっぺんには、火の見の塔みたいなのが突き出てる。
さらに、塔の上には鉄骨の枠が載っかってて、そこに何本ものアンテナが立ってる。
黒いうずが、そのアンテナまで下りてきて、そこに絡みついた。
絡みつかれたアンテナに、赤い光が見えた。
「火花だ」
火花が、冬の花火みたいに開いて、空に散った。
「奈美、何ぼーっとしてんだ」
「え?」
「カメラ持ってんだろ」
しゃがみ込んでた奈美は、我にかえったように立ちあがった。
雲と消防署のアンテナを結んだ黒いうずは、大きくうねり始めた。
「竜巻………?」
ぐるぐると回りながら、ときどき炎の柱みたいにゆらめいた。
また雷鳴がとどろいた。
怪獣の咆哮みたいだった。
あの雲はもう光ってない。
やっぱりあの光は、卵っていうか、何かの命が光ってたんじゃねえのか?
てことはつまり、もう何かが生まれちまったってことか?
その時、うずが大きくたわむと、雲につながってた上っ側がはずれた。
そしてそのままムチをふるうみたいに、消防署の左下に伸びた。
「教会だ!」
消防署のとなりにはカトリック教会があって、礼拝堂の上に2本の尖塔が突き出てる。
雲をはずれたうずの一端は、その尖塔の十字架にまつわりついた。
消防署のアンテナと、教会の十字架を斜めに結んだ黒いうずは、うねうねと形を変える。
そしてそのうずが、一瞬ふくれあがった。
それは、まるで生き物のように見えた。
「龍!」
理絵が悲鳴のような声をあげた。
【次回投稿は7月8日の予定です】→柳都物語「第40回・アンテナと十字架」
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