柳都物語 第36回・屋上前の会談
【柳都物語 第36回・屋上前の会談】
給食を食べ終わって、久しぶりに中村たちのバスケに混ぜてもらおうかと思ってたら………。
「井沢。ちょっと、時間いいか?」
「おれ、ですか?」
天津に呼び止められた。
「尚樹、何やったんだよ」
いっしょに教室を出ようとしてたマメオヤジが、小声でささやいた。
「何にもしてねえよ」
たぶん………。
後ろをついてくと、天津は教務室のある1階には下りずに、階段を上にのぼりはじめた。
どこ行くんだ?
それよか何の用だよ?
ひょっとして、3時間目の算数の問題で立ち往生したことか?
きのうの夜は、方角石のこととか考えてたら眠れなくなって、今日は寝不足だった。
で、ボーっとしてたとこを、運悪く天津に当てられたってわけ。
でも立ち往生なんて、寝不足じゃなくったって別に珍しいことじゃないからな。
だいいち、そういう話なら教務室へ行くだろう。
4階まで来ても天津は止まらなかった。
おいおい。
この上は屋上だぜ。
階段をのぼりきった天津は、屋上に出る扉の前で立ち止まった。
吹きつける風で、扉はカタカタと音を立ててた。
先週、理絵を呼び出した日よりも風が強い。
「外にまで出ることはないか………」
ガラス越しの寒空をのぞいてた天津が、独り言みたいにつぶやいた。
「屋上に何かあるんですか?」
天津は困った顔で振りむいた。
「いや、そういうわけじゃないんだ。教務室じゃちょっと話しづらくてな」
そう言いながら、天津は階段の手すりにもたれかかった。
「おまえら、何調べてんだ?」
「は?」
「ほら、おれにヘンテコな石のありかを聞いてただろ。あれから見に行ったみたいだな」
「え、ええ」
「きのうも言ったけど、あの公園はおれの通勤経路でな。今朝学校に来る途中、そういえばと思って見てみたら、あの石のあたりだけ雪が除けられていた。ははあ、おまえらの仕業だなとピンときたってわけだ。それで何なんだ、あの石?」
「方角石ですけど」
「そう言ってたな。確かに方角が書いてあるわなあ。で、何をする石なんだ?」
まったく、教師のくせに無知な男だぜ。
もうちょっと、郷土のこととか学べよな。
じいちゃんに聞いた方角石の話を、ここで初めからしなきゃなんねえのかって、ちょっとウンザリした。
「ええと、話せば長くなるんですけど」
「そうか………。そんなら、いいや」
なんじゃそれ。
「いやな、竹内先生がな、おまえらが何か危ない遊びでもしてるんじゃないかって言うんだ」
「危ない遊び? してませんよ、そんなこと」
「だろうなあ。おれだってあんな石が危ないとは思えんのだけど………。竹内先生が妙に心配しててな。おれに、おまえらが何してんのか聞いてくれって言うんだ」
危ねーのは竹内先生の方だぜ。
いったいどういうつもりだよ、あの先生?
「何でおまえみたいなやつのこと、あんなに心配するんだろうなあ。どう思う、井沢?」
「どうって………」
「やっぱり、保健室の先生ってのは優しいのかなあ」
「山下先生は、優しくなかったけど………」
「ああ。鬼みたいだったな」
産休に入った山下先生の代わりに、竹内先生が来たんだ。
「で、どうなんだ? 竹内先生に何て言ったらいいんだ?」
どう言い繕おうかと考えてたら、天津が急に顔を輝かせて振り向いた。
「ひょっとして、あれか? おれのじいちゃんか? 確かこないだ、堀のことを聞きに行ったんだよな。そこで何か入れ知恵されたんだろ?」
「え、ええ」
「そうか、そうか。そんなら安心だな。堀のこととか、ヘンテコな石のこととか、郷土のことを学ぼうというその姿勢は実に素晴らしい。うーむ、井沢。おまえがこういう方向に成長するとは思ってもみなかった。まあ、おまえひとりだったらあやしいが、伊崎もいっしょなんだからな。よしよし。これで竹内先生に説明できる」
天津は勝手にひとり合点すると、あっけに取られてるおれを残して、軽やかなステップで階段を下りてった。
【次回投稿は5月27日の予定です】→柳都物語「第37回・謎の三角形」
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