柳都物語 第35回・再び保健室
【柳都物語 第35回・再び保健室】
火曜日。
今朝も、ねずみ色の雲が空をおおってる。
きのう降った雪のせいで、道は少し歩きづらい。
新潟市ってのは普段そんなに雪が積もらないから、除雪体制はあんまし万全じゃないんだ。
ってのは、父親の受け売りだけど。
おれの父親は建設会社に勤めてて、毎朝車で工事現場に向かう。
今朝もそうだったけど、こういう雪の日は渋滞になるんで、おれが起きる前に出かけちまってる。
その父親の話だと、豪雪地の長岡市なんかは除雪体制が整ってるから、朝の通勤時間帯までには道路の雪なんかきれいに除雪されてるそうだ。
父親にこの話をされたとき、なんだか長岡に負けてるみたいな気がして、なんで新潟もそういうふうにできないのかって聞いた。
父親の答えは、たまにしか積もらない雪に対して、長岡みたいな除雪体制を敷いたら予算の無駄だろうってさ。
そんときはまだ中学年だったから、なんだか納得できなかったけど、今はまあそんなもんかなあって思う。
というわけで、今朝も道は少し歩きづらい。
児童玄関を入ると、新しい花瓶に花が飾られてた。
きのうの帰りに花瓶はなかったから、竹内先生が新しいのを買ったんだろうか。
花瓶の前でそんなことを考えてたら、後ろから声をかけられた。
「井沢くん、だったかしら?」
振り向くと、当の竹内先生だった。
ちょうど先生のことを考えてたおれは、ちょっとどぎまぎした。
「お、おはようございます」
「おはよう。指、どう?」
「全然平気です」
「バイ菌が入ってないか、見てあげる」
「もう直りましたって」
「人の親切は素直に聞くものよ。さあ、いいからこっちいらっしゃい」
こうしておれは、今朝も保健室に連行された。
「きのうの話なんだけど………」
おれの指に新しいバンソウコウを巻きながら、竹内先生が言った。
「きのうの?」
「ほら、あの地震の話よ。きのうは麻美ちゃんが来ちゃったから、詳しく聞けなかったじゃない。先生、ああいう話にすっごく興味あるんだなあ」
そう言って竹内先生は、おれの目をじっとのぞきこんだ。
「続きを教えてくれないかな」
「だ、だから、今、変な地震が起きてて、その地震ではすぐ近くでも揺れたり揺れなかったりして、児童玄関の花瓶が落ちたのも、きっとこの変な地震のせいじゃないかって………」
「それから?」
「それからって、それだけ、ですけど」
「そうお? だってそこまでは、きのう聞いた話よ。その先があるでしょ?」
「先、ですか?」
「きのう天津先生から聞いたんだけど、あななたち、おかしな石を探してるんだって?」
「え?」
「それって、関係あるのかな?」
「関係って?」
「おかしな地震との関係よ」
げっ。
この先生、鋭い。
天津とは大違いだ。
それにしても天津のやつ、なんで方角石のこと竹内先生にしゃべっちまうんだ?
ていうか、やっぱ方角石を探してるってことと、あの地震を結びつけるって方が普通じゃねえよな。
「どうやら図星みたいね?」
「えっ」
「君の顔が、そのとおりですって言ってるわよ」
おれは、よっぽどしゃべっちまおうかと思った。
4人で地震調査をしたこと。
地震の揺れが「へ」の字型の線上で起きてたこと。
そして、その「へ」の字の両端と頂点の3箇所に方角石があること。
その方角石が、地震のとき回ったこと。
でもなあ、ほかの3人に断りもなしにしゃべっちまうってのもなあ。
それに今日の放課後、じいちゃんに方角石のことを報告しに行くことになってた。
もちろん、4人いっしょにだ。
だからやっぱ、おれの一存で竹内先生にしゃべっちまうってのは、マズいような気がするなあ。
特に奈美なんか、あとで何言うかわかんねえぞ。
「どうしたの?」
そのとき、天の救いのチャイムが鳴った。
「あ、すいません、教室行きます! バンソコ、ありがとございましたっ!」
おれは一目散に保健室を飛びだした。
【次回投稿は5月13日の予定です】→柳都物語「第36回・屋上前の会談」
緑亥館通信「柳都物語・第35回について」
物産コーナー「『第35回・再び保健室』の巻」
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/58912/9810820
この記事へのトラックバック一覧です: 柳都物語 第35回・再び保健室:

緑亥館物産コーナー
コメント