柳都物語 第32回・もうひとつの方角石
【柳都物語 第32回・もうひとつの方角石】
教室に入ると、人だかりがしてた。
女子が団子になってる。
真ん中に奈美の頭が見えた。
保健室から一緒に来た麻美子は、すぐにその団子の中にもぐりこんでった。
「見せて見せて」
「撮って撮って」
何の騒ぎだ?
「だから、これは方角石って言って、これが日和山の住吉神社、それからこっちが水戸教公園。もうひとつ白山公園にあるんだけど、あんたたち、ほかに知らない? こういう石のあるところ」
奈美がデジカメの液晶を見せてるらしい。
女子なんかに聞いたって分かりっこねえよ。
「この石がどうかしたの?」
「麻美子、知ってんの?」
「知らない」
「なんだ。みんなも、もう一度よく見て。たぶん公園とか神社とかだと思うんだけど、どっかでこういう石、見たことないかな?」
「だから奈美ちゃん、何でこういう石、探してんの?」
「それは、まだ秘密」
「えー、なんで?」
「なんででも」
「ねえ奈美、白山公園の写真は無いの?」
「わたしも、きのう知ったばっかりなのよ。だからまだ行ってないの」
「白山公園なら初詣にも行ったけど、こんな石あったっけ? ひょっとして、獅子山の上とか?」
「ううん。蓮池のそばだって」
「こんな石、蓮池のそばにあったあ? 誰から聞いたの?」
「理絵ちゃん」
「菊池さん? だってあの人、新潟来たばっかりなんでしょ? 何でそんなこと知ってんの?」
「お参りに行ったんだって。そんとき見たって言ってた。ちょっと、理絵ちゃん、理絵ちゃん、いない? あ、いたいた」
団子の中から出てきた奈美は、理絵を見つけてかけ寄った。
「ちょっと、白山公園の方角石について説明してくれない?」
おれもその話を聞きたかったけど、たちまち女子の団子が移動してきて、理絵と奈美を取り囲んだ。
団子からもれてくる理絵の声を聞きながらランドセルを置くと、マメオヤジが寄ってきた。
「男はだめだぜ。誰も知らねえってよ、方角石」
なんだよ。もうみんなに聞いたのか。
天津が入ってきた。
女子のバカどもは気がつかないで、まだ固まってる。
それを見た天津は、おれたちに向かって人差し指を口にあてると、抜き足差し足で女子の輪に近づいてった。
「こらーっ! チャイムが鳴ったのが聞こえんのかーっ!」
「キャー」
天津の大声に、麻美子なんか腰を抜かしそうになってた。
「こら、伊崎。学年委員のおまえが何をやっておるか」
「あ、先生。これ見て、この石」
天津が奈美のデジカメを手に取ろうとした。
「だめっ。変なとこさわらないで」
「人聞きの悪いことを言うな。人を痴漢みたいに。おれがどこにさわった?」
「だから、デジカメにはボタンとかスイッチとかいろいろあって、変なとこさわると写真が消えちゃうんです」
「おまえ、おれをメカ音痴だと思ってるだろ?」
みんなそう思ってるぜ。
ビデオの予約ができないって、いつも言ってんじゃねえの。
「なんだ? これは」
「方角石って言うんです」
「ほー」
「どっか知りません? こういう石のあるところ」
「こういうのなら見たことあるぞ」
「えっ? どこでですか?」
「間違いない。曙公園にある。何のマジナイかと思ってたんだ」
「曙公園って、どこにあるんですか?」
「下(しも)の本町市場の裏だ。おれの通勤経路でな」
おれは地図をひっつかむと、輪の中にもぐりこんだ。
「先生、この地図のどこですか? その曙公園」
「なんだ、井沢? おまえも石探しの一味か? 小さい公園だからな。どうやらこの地図には載ってないみたいだな。でも、確かこの辺だ」
天津の指さしたあたりには、公園は描いて無いけど「曙町」っていう町名があった。
まさか天津が方角石を知ってたとはな。
思いがけない収穫だぜ。
【次回投稿は4月1日の予定です】→柳都物語「第33回・いざ、曙公園」
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