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2006.03.18

柳都物語  第32回・もうひとつの方角石

【柳都物語 第32回・もうひとつの方角石】

 教室に入ると、人だかりがしてた。
 女子が団子になってる。
 真ん中に奈美の頭が見えた。
 保健室から一緒に来た麻美子は、すぐにその団子の中にもぐりこんでった。
「見せて見せて」
「撮って撮って」
 何の騒ぎだ?

「だから、これは方角石って言って、これが日和山の住吉神社、それからこっちが水戸教公園。もうひとつ白山公園にあるんだけど、あんたたち、ほかに知らない? こういう石のあるところ」
 奈美がデジカメの液晶を見せてるらしい。
 女子なんかに聞いたって分かりっこねえよ。
「この石がどうかしたの?」
「麻美子、知ってんの?」
「知らない」
「なんだ。みんなも、もう一度よく見て。たぶん公園とか神社とかだと思うんだけど、どっかでこういう石、見たことないかな?」
「だから奈美ちゃん、何でこういう石、探してんの?」
「それは、まだ秘密」
「えー、なんで?」
「なんででも」
「ねえ奈美、白山公園の写真は無いの?」
「わたしも、きのう知ったばっかりなのよ。だからまだ行ってないの」
白山公園/獅子山 「白山公園なら初詣にも行ったけど、こんな石あったっけ? ひょっとして、獅子山の上とか?」
「ううん。蓮池のそばだって」
「こんな石、蓮池のそばにあったあ? 誰から聞いたの?」
「理絵ちゃん」
「菊池さん? だってあの人、新潟来たばっかりなんでしょ? 何でそんなこと知ってんの?」
「お参りに行ったんだって。そんとき見たって言ってた。ちょっと、理絵ちゃん、理絵ちゃん、いない? あ、いたいた」
 団子の中から出てきた奈美は、理絵を見つけてかけ寄った。
「ちょっと、白山公園の方角石について説明してくれない?」
 おれもその話を聞きたかったけど、たちまち女子の団子が移動してきて、理絵と奈美を取り囲んだ。
 団子からもれてくる理絵の声を聞きながらランドセルを置くと、マメオヤジが寄ってきた。
「男はだめだぜ。誰も知らねえってよ、方角石」
 なんだよ。もうみんなに聞いたのか。
 天津が入ってきた。
 女子のバカどもは気がつかないで、まだ固まってる。
 それを見た天津は、おれたちに向かって人差し指を口にあてると、抜き足差し足で女子の輪に近づいてった。
「こらーっ! チャイムが鳴ったのが聞こえんのかーっ!」
「キャー」
 天津の大声に、麻美子なんか腰を抜かしそうになってた。
「こら、伊崎。学年委員のおまえが何をやっておるか」
「あ、先生。これ見て、この石」
 天津が奈美のデジカメを手に取ろうとした。
「だめっ。変なとこさわらないで」
「人聞きの悪いことを言うな。人を痴漢みたいに。おれがどこにさわった?」
「だから、デジカメにはボタンとかスイッチとかいろいろあって、変なとこさわると写真が消えちゃうんです」
「おまえ、おれをメカ音痴だと思ってるだろ?」
 みんなそう思ってるぜ。
 ビデオの予約ができないって、いつも言ってんじゃねえの。
「なんだ? これは」
「方角石って言うんです」
「ほー」
「どっか知りません? こういう石のあるところ」
「こういうのなら見たことあるぞ」
「えっ? どこでですか?」
「間違いない。曙公園にある。何のマジナイかと思ってたんだ」
「曙公園って、どこにあるんですか?」
下(しも)の本町市場 「下(しも)の本町市場の裏だ。おれの通勤経路でな」
 おれは地図をひっつかむと、輪の中にもぐりこんだ。
「先生、この地図のどこですか? その曙公園」
「なんだ、井沢? おまえも石探しの一味か? 小さい公園だからな。どうやらこの地図には載ってないみたいだな。でも、確かこの辺だ」
 天津の指さしたあたりには、公園は描いて無いけど「曙町」っていう町名があった。
 まさか天津が方角石を知ってたとはな。
 思いがけない収穫だぜ。

【次回投稿は4月1日の予定です】→柳都物語「第33回・いざ、曙公園

緑亥館通信「柳都物語・第32回について
物産コーナー「『第32回・もうひとつの方角石』の巻

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