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2006.02.04

柳都物語  第29回・海の下の道

【柳都物語 第29回・海の下の道】

「さっきから、ミトキョー、ミトキョーと言っておるが、もともとはミトオシエと言ったんじゃよ。昔は、河口のことを『水戸(みと)』と言ってたからじゃ。水戸を教えるから、ミトオシエというわけじゃな」
「じゃ、茨城県の水戸市とは全然関係ないんですね?」

「そういうことじゃ。水戸という字はこうも書く」
 じいちゃんは紙に、『水門』という字を書いた。
「まさに海と川の境にある水の門というわけじゃな。茨城県の水戸市も、那珂川(なかがわ)の河口が『水戸』と呼ばれていたためについた名前なんじゃ」
 奈美は、じいちゃんの話を熱心にノートにとっていた。
「しかし、水戸教のことなぞどこで知ったんじゃ? 学校で習ったのかな?」
「実はこれなんです」
水戸教公園/やぐらの前の説明板  奈美はデジカメのコマを送って、水戸教公園のやぐらの前にあった説明板をじいちゃんに見せた。
「ほっほっほ。ということは、知りたてのほやほやということじゃの?」
 奈美は肩をすくめてチラッと舌を出した。
「水戸教が新潟港の水先案内をしてたって、この説明板に書いてあったんです。でも、実はその水先案内ってのがよくわからないんですよ。街の中なら、道がごちゃごちゃしてたりして、知らない人は案内がないと迷っちゃうかも知れないけど、海の上ってさえぎるものが何も無いんだから、港は目で見えますよね。この液晶じゃ字が読めないですけど、『やぐらに登って港に入ってくる沖合の船を確認していました』って書いてあるんです。てことは船から港も見えるわけでしょ? それなのに何で案内なんか必要なのかなって」
「なるほど。これは良いところに気がついたの。確かに海の上は目で見える。天気が良ければ佐渡ヶ島まで見えるんじゃからな。でも、海の下は目で見えんじゃろ?」
「海の下?」
「新潟の港は信濃川の河口にできた川港じゃ。川の上流からは土砂が運ばれてくる。運ばれてきた土砂は、河口、つまりは水戸じゃな、そこに積もって水の下で小山をつくる。しかも、上流に降る雨の具合で川の流量が変わると、その水の下の山が動くんじゃな。山の上の水深は、人の背が立つほどしかない。そこへ船が乗りあげたりしたら大変じゃろ? なにしろ同じ場所でも、朝と夕方で深さが違ったそうじゃから、案内なしではとても恐ろしくて入って来れんかったわけじゃよ」
「へー」
「じゃから沖に回船が見えると、水戸教の人が小船に乗って回船を迎えに行くんじゃ。そして、船が浅瀬に乗りあげたりしないように、水先を案内しながら港まで誘導したんじゃな。時には、川底を鋤簾(じょれん)という道具で掘って、船の通る道をつくりながら案内したそうじゃよ」
「そうか! 海の下に道があったんだ。その道案内ってことですね?」
「ほほほ、うまいことを言う。お嬢ちゃんは知恵が回るのう」
 奈美は得意顔だ。
 こいつにばかりいい顔をさせてられないので、おれは今さっき思いついたことを質問することにした。
「話は変わるんですけど、住吉神社のある日和山って、けっこう港から離れてますよね。あんな所で天気予報をしていて、それをどうやって港まで知らせたんですか?」
「飛脚じゃねえの? それともノロシか?」
 マメオヤジが余計な茶々を入れる。
信濃川の河口(万代島ビルより) 「これも良いところに気がついた。じゃがな、あの日和山で日和見をしていたころは、すぐそばに港があったんじゃ。つまり、港のほうが動いたんじゃな」
「港が移転したんですか?」
「そう。港がひとりでに移転することがあったんじゃよ」
「ひとりでに?」
「洪水じゃよ。洪水による信濃川の氾濫で、河口がそれまでとは別のところにできることがあった。つまりは、港が勝手に動くんじゃな」
「えー」
「ちょっと信じられないんですけど、そんな洪水」
「そういう洪水から下流の町を守るために、大河津分水や関屋分水が造られたわけじゃ。信濃川の水は、分水路から日本海へ逃がされるようになった。おかげで河口近くの川幅は昔の3分の1くらいになり、すっかりおとなしい川になった。今の信濃川しか知らない君らには信じられないかも知れんが、昔の信濃川は大変な暴れ川だったんじゃよ」
「あの信濃川が、そんな洪水をおこす川だったなんて………」
「第一、川幅が今の3倍もあったってのが信じらんねえ」

【次回投稿は2月18日の予定です】→柳都物語「第30回・白山公園と住吉神社

緑亥館通信「柳都物語・第29回について
物産コーナー「『第29回・海の下の道』の巻

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