柳都物語 第30回・白山公園と住吉神社
【柳都物語 第30回・白山公園と住吉神社】
「あっ、わかりました」
奈美がまた手を挙げた。
学校じゃねえんだぞ。
「じゃあ、新日和山に移転したあと、そこが海に沈んだんで、今度は水戸教公園に移転したんですね?」
「いやいや。あの公園は元々、水先案内をする人たちの詰め所があった場所じゃ。確か当主の仁太郎さんの名を取って『仁太郎小屋(にたろうごや)』と云ったんじゃなかったかな」
「それだったら、新日和山が沈んだあと、どこで天気予報をしてたんですか? あっ、待って待って、わかった!」
奈美が立ち上がって手をあげた。
だから学校じゃねえんだって。
「白山公園! 白山公園に移ったんですよね? だからあそこにも方角石があるんだ!」
奈美が勢いこんで聞いた。
「あそこの方角石は違うじゃろ」
「えーっ」
ざま見ろ。
「あれは、いってみれば住吉神社のつながりじゃな」
「どういうことですか?」
「白山公園にも住吉神社があるじゃろ」
「えーっ。白山神社だけじゃないんですか?」
「白山神社には、合祀(ごうし)といって、いろんな神社がいっしょに祀られておるんじゃ。住吉神社もそのひとつでな。ほれ、西堀通りの突きあたりから公園に入る入口があるじゃろ。西堀口と云ったかな? 住吉神社はそこを入ってすぐのところにあるぞ」
おれたちは顔を見合わせた。
どういうこった?
住吉神社のつながりって。
「住吉神社は何の神様じゃ?」
「何の?」
「ほれ、天神さまなら学問の神様とか言うじゃろ?」
おれと奈美が首をひねってると、理絵が答えた。
「海上安全の神様です」
宗教系なら知っててあたりまえだ。
奈美はちょっと驚いた顔で理絵を見た。
「そのとおり。住吉さんは海神さまじゃ。そもそも日和山の住吉神社は、水戸教の伊藤仁太郎さんが家で祀っていたものを、あの山の上に移したものなんじゃよ」
「じゃあ、白山公園で天気予報をしてたわけじゃないんですね? 絶対そう思ったのになあ。丘みたいな高台もあるし」
「確かにのう。美由岐賀岡(みゆきがおか)とか獅子山(ししやま)と呼ばれる高台はあるわなあ。しかし、あれらは造られた丘なんじゃよ。白山公園がいつ出来たか知っておるかい?」
おれたちは首を横に振った。
「明治6年、当時の太政官から各府県に対し、日本各地の景勝地や旧跡を公園として指定するので伺い出よという布告が発せられた。そこで当時の新潟県令楠本正隆は、白山神社の境内周辺を申請したんじゃな」
「あのー、ダジョーカンって何ですか?」
マメオヤジだ。
「それと新潟ケンレイってのもわからないんですけど」
これは奈美。
へへへ、来た来た。
「なんだ奈美、県令も知らねえの? 今の県知事のことじゃん」
「げ。尚樹、何であんたが知ってんの?」
「そんなの常識だろ」
実は、ちょっとしたことで知ったばっかりなんだけどな。
「じゃ、ダジョーカンってのは何よ?」
「そ、それは、わかんねえよ」
「ほっほっほ。県令だけでも知っとれば大したものじゃよ。太政官というのは、今で云えば内閣のことじゃな。つまり白山公園は、日本で最初に指定された公園のひとつというわけじゃ。江戸時代までは公園なんて無かったからのう。だから美由岐賀岡や獅子山も、人の手で造られた築山なんじゃよ」
「だったら白山公園にある方角石って何なんですか?」
「あそこの方角石は、云ってみれば新潟港の海上安全を願うシンボルみたいなものじゃな。水戸教公園のも同じじゃよ。ほれ、モニュメントとかいうやつじゃ。白山公園の方角石は、確か大正のなかばごろに、古町通りの高橋さんという人が寄付したんじゃなかったかな。天気予報をするための方角石は、まさしく海上安全を願うシンボルといえるじゃろ?」
「そうかあ。でも、それじゃその天気予報をした日和山は、新日和山が沈んだあとどこへ移ったんですか?」
「どこへも移らなんだ」
「え?」
「水戸教の役目は終わったんじゃよ。天気予報は測候所がやるようになったし、水先案内も県の業務になった。それにしてものう」
じいちゃんは、地図の×印に目を落として考えこんだ。
「新潟市にある方角石は、この3カ所だけなんですか?」
理絵が聞いた。
「わしもそれを考えておったんじゃが、ちょっと思いつかんわい。あんたがた、学校で聞いてみてくれんか? 知ってる生徒さんがおるかもしれん。先生たちにもな。まあ、信吉は知らんじゃろうがな」
【次回投稿は3月4日の予定です】→柳都物語「第31回・保健室」
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