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2006.01.21

柳都物語  第28回・日和山と天気予報

【柳都物語 第28回・日和山と天気予報】

「住吉神社があるところは、『ヒヨリヤマ』とも言うことを知っておるかい? こういう字じゃ」
 じいちゃんは紙に、『日和山』という字を書いた。
「あ、この字なら神社の柱に書いてありました」
「それじゃ、『日和(ひより)』の意味を知っておるかな? ほれ、『良いお日和で』とか言うじゃろ?」

 おれたちは顔を見合わせて首をかしげた。
「ほっほっほ。どうやら『良いお日和で』などと言うのは、わしらみたいな年寄りだけのようじゃな。結構な挨拶言葉と思うんじゃがなあ。それなら『日和見(ひよりみ)』という言葉は、聞いたことがあるじゃろ?」
「なんとなく………」
「あるみたいな………」
「ないみたいな………」
「うーむ、頼りないの。もともと『日和』とは、海上のお天気のことを言った。つまり、『日和見』の本来の意味は、海上の天気を見ること、すなわち天気予報のことなんじゃ。空を見上げて、雨になるか晴れになるか首をひねっておったわけじゃ。そこから、事の成行をうかがって思案しているさまを『日和見』と言うようになったんじゃな。これはちっと余談じゃったかな。で、その『日和見』をする小高い山を『日和山』と言ってな、そうした『日和山』は日本各地の港にあったんじゃよ」
「あ、わかりました!」
 奈美が突然手を挙げた。
「ん?」
 奈美はデジカメを操作して、住吉神社の方角石を表示させた。
「それじゃ、この方角石は天気予報に使ってたってことですよね?」
「そうそう。雲の位置や風向きを確かめるためにな。昔はアメダスとかいう気象衛星なんて無かったからの」
「この石で天気予報ですかあ?」
 おれはデジカメの画像を見ながら言った。
 なんか、ものすげー原始的だぜ。
「いや、方角石で日和見をしていたことは確かじゃがな。今、住吉神社に置いてある石ではなかった」
「それって、どういうことですか?」
「今ある方角石は、明治の中頃に造られたものじゃ。このカメラの画面じゃ小さすぎて読めんがな、造られた日付が石の側面に彫ってあるはずじゃ。で、元からあった方角石は、その時はすでに別の場所に移されておった」
「別の場所ってどこですか?」
住吉神社から見た日和山展望台日和山展望台  「神社の裏手から海の方を眺めると、展望台が見えなかったかな?」
「見えました」
「あの沖に新日和山というのがあった」
「沖に? 海の中ですか?」
「もちろん新日和山があったころは沖ではない。そこまで砂丘が続いておった。明治の始めころ、日和見櫓(ひよりみやぐら)と方角石は、そっちの新日和山に移されたんじゃ。で、古い方の日和山には住吉神社が移ってきた。この写真の方角石は、そこへ奉納されたというわけじゃ」
「じゃ、元からの方角石は、今どこにあるんですか?」
「海の底じゃろうな」
「えーっ」
「砂丘が浸食されて新日和山は海に沈んだ。方角石もいっしょにな」
 海の底の方角石か………。
 ひょっとしてその石、あの地震のとき回ったんじゃねえのか?
 おれは、海の底で砂を巻きあげながら回転する方角石を想像した。
「そのころの天気予報って、当たったんですかあ?」
 デジカメをのぞきこんでいたマメオヤジが言った。
「もちろんじゃよ。港を出た船が、急な嵐で転覆したりすれば大変なことになるじゃろ。天気予報には、たくさんの人の命がかかっておった。だから、水戸教という専門の職業の人が天気を見ていたんじゃな」
「えっ、水戸教ですか? 水戸教って、港の水先案内をする人じゃなかったんですか?」
 奈美が、さっき水戸教公園の説明板で読んだばっかりのことを、ずっと前から知っているみたいに言った。
「ほー、水戸教のことを知っておるのか? これまた大したもんじゃ。もちろん、水先案内もやっておったし、天気予報もやっておったわけじゃ。新潟港近辺だけの超ローカル予報じゃが、それだけにピタリと当たる。測候所ができてからも、遠足の日の天気なんか、測候所に聞かずに水戸教に聞きに行ったもんじゃ。水戸教は伊藤さんという家の世襲でな、当主は代々『伊藤仁太郎(いとうにたろう)』を名乗った」
 じいちゃんはそこまで言うと、テーブルのお茶をごくりと飲みほした。

【次回投稿は2月4日の予定です】→柳都物語「第29回・海の下の道

緑亥館通信「柳都物語・第28回について
物産コーナー「『第28回・日和山と天気予報』の巻

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