柳都物語 第25回・水戸教公園
【柳都物語 第25回・水戸教公園】
『新潟港水先案内水戸教発祥地』
柱には、黒い字でそう書かれてあった。
新潟港水先案内ってのは何となく想像つくけど、その下の水戸教ってのがわからない。
「水戸教って何だ? 茨城の宗教か?」
おれは理絵を振り返って聞いた。
宗教ならこいつの係だ。
でも、理絵は知らないらしくて、首を横に振った。
待てよ。
水戸教?
この字、どっかで見たぞ。
そうだ!
おれは地図を開いた。
「やっぱりそうだ」
「何よ?」
3人が顔を寄せてきた。
例の『へ』の字の右端だ。
『水戸教公園』
今いる住吉神社からその水戸教公園まで、×印が一直線に並んでる。
「なんか、あやしいにおいがしてきましたぜ」
マメオヤジがうれしそうに言った。
「あんたたちの調査区域でしょ。どんな公園だったの?」
「どんなって、公園があったのはわかったけど、入ったわけじゃないからな」
「なんで入んないわけ?」
「公園の向こうはもう海みたいだったからな。誰もいないようだったし、手前で引き返した」
「返すがえすも、うかつなやつらね」
「きのうの段階じゃ、わかんねえだろ。地震が一直線上に起きてたなんてよ」
「とにかく行ってみよ」
言うやいなや奈美は階段を駆けおりはじめた。
さっきから、なんでおまえが仕切るんだよ。
階段を下りきった奈美が急に立ち止まったんで、背中にぶつかりそうになった。
「なんで止まんだよ」
「よく考えたら、走ってくわけにいかないよね。けっこう距離あるし」
「先に考えてから行動しろよ」
「自転車取りに行く?」
「とりあえず通りに出てみようぜ。バスがあるかもよ」
下り坂の向こうに、信号のある交差点が見えた。
交差点まで来て見まわすと、第四銀行の前にバス停が見える。
マメオヤジがすっ飛んでった。
「入船営業所行きだってよー!」
時刻表を見て、マメオヤジが大声でどなった。
地図によると、新潟交通の入船営業所は水戸教公園のすぐ近くだった。
やっと来たバスに飛び乗って、終点の入船営業所で降りる。
少し道を戻って小路を入ると、すぐに水戸教公園はあった。
「なんか、最果てって感じね」
「だろ。だから入んなかったんだよ」
公園に入ると、灰色の雲の下に荒れた日本海が見えた。
砕けた波が、白犬の群みたいに寄せて来る。
波の上をカモメが2,3羽、風にあおられながら斜めになって飛んでた。
公園の真ん中に、住吉神社ほどじゃないけど小高い丘があった。
丘の上に、カニのハサミを立てたみたいな白い石の彫刻が見える。
こういう海のそばってのは、強い風のせいでほとんど雪が積もらない。
丘の表面は、枯れた芝生にうっすらと粉砂糖をまぶしたみたいになってる。
丘の上まで園路がついてた。
とりあえず園路を登り始めると、マメオヤジが途中から走りだした。
石の彫刻の手前で立ち止まって、おれたちを振りかえる。
「早く来いよ!」
「何だよ?」
マメオヤジは黙って足元の地面を指さした。
枯れた芝生の中に、丸い円盤みたいな石が埋まってた。
直径は1メートルくらい。
石の上には、中心の黄色い丸から、放射状に青い線が伸びてる。
線は、太いのが4本、細いのが4本。
ちょうど『米』の字みたいだった。
十字の太い線の先には、『E』『W』『S』『N』の文字が彫られてる。
「この石、ひょっとして住吉神社にあったやつと同んなじもんじゃねえの?」
マメオヤジがおれたちを見まわしながら言った。
確かに、和風と洋風の違いはあるけど、どっちも方角を表した石であることには間違いない。
「尚樹、地図見せて」
奈美が何か思いついたような顔で言った。
地図を開くと、海から吹きつける風にはためいて千切れそうになる。
「やっぱり」
「やっぱり何だよ?」
「白山公園の位置よ。×印の左端じゃない。理絵ちゃんの話だと、白山公園にもこういう石があるわけだから、つまりこの『へ』の字の両端と、折れ曲がった頂点の3ヶ所には、みんな方角を表した同じような石があるってことよね」
おれたちは頷いた。
「それで?」
「それでって、それしかわかんないじゃないのよ」
「なんだよ。あんまり堂々としゃべりだしたから、てっきり謎が解けたのかと思ったぜ」
【次回投稿は12月24日の予定です】→柳都物語「第26回・やぐらが揺れた」
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