柳都物語 第26回・やぐらが揺れた
【柳都物語 第26回・やぐらが揺れた】
「尚樹よー、ここに水戸教のことが書いてあるぜ」
その声に振り向くと、マメオヤジは丘のてっぺんにある木製の建物の前にいた。
建物は展望台みたいで、木の階段の登り口に説明板が立っていた。
おれたちが集まってくるのを待って、マメオヤジが説明板を読みあげる。
「『江戸時代から昭和のはじめまで新潟港の水先案内をしていた水戸教は、やぐらに登って入ってくる沖合の船を確認していました。』だってよ」
「これがその『やぐら』ってわけね」
「全然新しいじゃねえか、これ」
「バカね。だからこれは複製品よ。ほら、『このやぐらは、公園を利用する皆さんに現在の新潟港を眺望しながら、水戸教の仕事を体感してもらうことができるように建てました。』って」
「なーんだ、ニセモノかよ」
マメオヤジが大げさに嘆いてみせた。
「水戸教ってのは、新潟港の水先案内をする仕事みたいだな。茨城の宗教じゃないってことか」
「でも、港の水先案内って、何するのかしら?」
奈美が説明板をデジカメで撮りながら言った。
「そりゃ、港まで案内をするんじゃねえの、船を」
「なんで案内なんかいるわけ? 港なら目で見えるじゃないのよ、船の上から」
「霧とか懸かって港が見えないときに案内するんじゃねえの?」
「それは変よ。だって『やぐらに登って入ってくる沖合の船を確認していました』って書いてあるじゃない。港から船が見えるんなら、船から港だって見えるはずよ」
「奈美、鋭い」
マメオヤジの声に奈美はふんぞり返った。
「そう言われてみれば、そうだな。港が見えてりゃ迷いっこないってわけだ。なんで案内がいるんだ?」
「だから、それをあたしが聞いてるんじゃないの」
「きっと、天津のじいちゃんなら知ってるぜ」
「そうね。今度行ったときに聞いてみよ。質問事項その1、と」
奈美はノートにメモしながら言った。
おれたちは、やぐらの上に登ってみた。
海から吹きつける風で、目を開けてられないほどだ。
みんなの髪が逆立って、オールバック状態になった。
理絵の赤いマフラーがはためいて、おれの鼻をくすぐる。
こいつ、案外おでこが広いんだな。
「あのカモメ…」
理絵がつぶやいた。
「カモメが何だよ」
理絵は波の上を飛ぶカモメを指さした。
あっ。
今、2羽のカモメが空中でぶつかって、くるくると回りながら落ちてった。
ほかのカモメもめちゃくちゃな飛びかたをしてる。
なんだか、パニクってるって感じだ。
まるで、急に目が見えなくなったみたいだった。
その時だ。
やぐらが揺れた!
一瞬、風にあおられたのかと思ったけど、床板がミシミシと音をたてはじめた。
おれと理絵は手すりにつかまった。
マメオヤジはしゃがみこんだ。
奈美は、手近のマメオヤジにしがみついた。
しがみつかれたマメオヤジがバタバタとあばれてる。
あれじゃチョークスリーパーだ。
「井沢くん、あれ!」
理絵が、手すりの間から腕を伸ばして下を指さしてる。
あの石だ!
あの石板が回ってる!
方角を示した青い線がかすんでた。
今にも空飛ぶ円盤みたいに飛び上がりそうに見えた。
「奈美、は、離せよ。首がしまる。く、苦しいって」
奈美はまだマメオヤジにしがみついてた。
目を石にもどすと、もうそれは回ってなかった。
揺れもおさまっていた。
「何だったんだ、あれ」
おれと理絵は顔を見合わせた。
「早く降りようよ」
奈美が泣き声をだした。
やぐらを降りても、まだ少し足がガクガクしてる。
おれは石板に駆け寄った。
動くものかどうか、手で回そうとしてみたけど、ビクともしない。
「尚樹、何やってんだよ。地震で頭打ったんじゃねえの?」
奈美も変な顔をしている。
どうやら、この2人は石板が回るのを見てないらしい。
「回ったんだ、これ」
「目が回ったんじゃねえの?」
「それはおめーだろ。理絵も見たんだ」
「ほんと? 理絵ちゃん」
奈美の問いかけに理絵はうなずいた。
「どうする、これから?」
奈美の声はまだ震えていた。
「とりあえず、帰ろうぜ。また風邪ひきそうだ」
【次回投稿は1月7日の予定です】→柳都物語「第27回・その名は方角石」
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