柳都物語 第23回・『へ』の字の謎
【柳都物語 第23回・『へ』の字の謎】
日曜日。
今日は、朝から奈美の家に集まることになってた。
家っていってもマンションだけど。
学校のすぐ裏の西堀通りにある。
もちろん、地震調査の結果をつきあわせるためだ。
きのう1日晴れたのがうそのように、今朝はまたどんよりとした雲が空をおおってた。
雪が降ってないだけましってとこ。
MTBはやめて歩いてくことにした。
雪くらい降ったってチャリンコに乗れないわけじゃないけど、新潟の冬は風が吹くとやっかいなんだ。
こないだの早川堀でもそうだったけど、まともに正面から吹かれたら、いくらペダルを踏みこんだって前に進まない。
まあ、歩いても10分くらいだしな。
で、西大畑公園の前まで来たときだった。
大畑小に通うときは、この公園の中を突っ切っていくんだけど、奈美のマンションへはそれじゃ遠回りになる。
正門前をそのまま真っ直ぐ通りすぎようとしたときだ。
また、いたんだ。
キースが。
堀のそばに。
こっちに背を向けてたけど、ひと目でキースってわかった。
2メートル近い長身を真っ黒なコートにつつんで、堀を見おろしてる。
おれは、気づかれないように石垣の陰まで戻った。
灰色の雲の下で、暗い水面を見おろす黒ずくめの大男。
あやしい雰囲気プンプンだぜ。
しばらく見張ってたけど、キースはただ堀を見てるだけだった。
背中をまるめて、コートのポケットに手を入れて、何もない水面を見つめてる。
なんだか寂しそうだった。
知らない町に来て心細いのかもな。
やべ。
こんなことしてたら遅れちまう。
また奈美に文句言われるぜ。
おれは小走りで正門前を通り抜けた。
奈美の家のチャイムを押すと、おかあさんが出てきた。
「あら尚樹ちゃん、いらっしゃい。久しぶりじゃない? どうしてたのよ。このごろちっとも来なかったじゃない?」
中学年のころまでは、けっこう奈美の家に遊びに行ってたんだ。
なにしろ学校の近くだし、マンションの窓からの眺めもいいから、おれだけじゃなくて、みんなのたまり場みたいになってたってわけ。
でも、高学年になると、男子はあんまり奈美の家に行かなくなった。
奈美を筆頭に女子どもの図体がでかくなり、いっしょにいると気圧されるような気がして、自然と足が遠のいたんだ。
女子は相変わらず集まってるみたいだけど。
リビングに入ると、理絵とマメオヤジはもう来ていた。
「遅いじゃないのよ」
奈美がにらんだ。
「悪い悪い」
リビングのテーブルには、例の地図が広げられてる。
地図には、もう赤い×印がたくさん書きこまれてた。
広小路から南、奈美と理絵の担当区域だ。
「尚樹よー。変だぜ、これ」
「絶対に変よ。早くあんたたちの調査結果を見せてよ」
おれは、きのうのノートを開いた。
おれが番地を読みあげて、奈美が地図に×印を入れていく。
「これで最後」
窪田町2丁目の番地を読みあげて、ノートから顔を上げた。
奈美も、最後の×印を書きこむと顔を上げた。
目がらんらんと輝いてる。
「マジかよ」
マメオヤジが、めずらしく真面目な声をだした。
地図の上に、×印が一直線に並んでる。
ただ、その直線は途中で折れ曲がってた。
つまり、『へ』の字の形だ。
「湊小のあたりじゃねえか? 曲がってるの」
「少しずれてんじゃない? ちょっと待ってて」
奈美は、自分の部屋から定規を持ってきた。
地図に定規をあてると、×印を結んで2本の線を引いた。
その交差したところが「へ」の字の頂点だ。
「ほら、湊小からは、ちょっとずれてるでしょ」
「住吉神社ってのがあるぜ。ちょうどそのあたりだ」
「あんたたちの調査区域でしょ。どんな神社だったの?」
「神社なんて、あったか?」
おれとマメオヤジは顔を見合わせた。
「うかつなやつらね」
天津の決めゼリフ「うかつなやつ」を奈美に決められちまった。
おれたちは腕組みして考えこんだけど、さっぱりわからない。
奈美がすっくと立ちあがった。
「とにかく行ってみよ」
「どこへ?」
「きまってるじゃない。住吉神社よ」
【次回投稿は11月26日の予定です】→柳都物語「第24回・住吉神社」
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