柳都物語 第22回・地震調査(2)
【柳都物語 第22回・地震調査(2)】
寺町っていうけど、そういう地名があるわけじゃない。
正しい地名は「西堀通」。
西堀を埋めてできた広い通りを西堀通りって言って、信濃川と平行して北(正確には北東)へ走ってる。
この西堀通りを挟んだ両側の地名がちょっとややこしい。
通りの東側、つまり信濃川に近い側が「西堀前通」。
反対側が「西堀通」。
西堀が埋められる前は、堀を挟んで2本の細い道路が走ってた。
堀の東側の道路を「西堀前通」、西側を「西堀通」って言って、それぞれの道路側の地名もそうなってた。
堀が埋められると、堀とその両側の道路が合わさって1本の大通りになった。
なのに地名はそのまんまだから、こんなややこしいことになってるわけ。
東堀通りの両側も同じで、「東堀前通」と「東堀通」だ。
寺町は、さっき言ったようにその「西堀通」にある。
あるっていうか、西堀通りに沿って「西堀通一番町」から「西堀通十一番町」まで、細長く帯みたいに続いてる。
信濃川の上流の方を上(かみ)って言うんだけど、西堀通りが始まる一番上手(かみて)が一番町で、下(しも)に行くにしたがって数字が大きくなる。
ちなみに、こういう細長い街は「西堀通」だけじゃなくて、じいちゃんが言ってた縦の2本の西堀と東堀に沿った地域は、みんなこんな感じだ。
当然、「西堀前通」も十一番町まであるし、「古町通」と「東堀通」は十三番町まで、「東堀前通」は十一番町まで、「本町通」が十四番町まで、「上大川前通」は十二番町まである。
細長い街だから、同じ「西堀通」でも、一番町から十一番町まで歩けば30分以上かかる。
この帯みたいな「西堀通」に、お寺がずらーっと並んでて、古くから寺町って呼びならわされてきたらしい。
寺町ができたのは、なんでも江戸時代の前の戦国時代だって話だ。
こういうのは、みんな天津の受け売りだけど。
そんなお寺のひとつで話を聞いて、門を出ようとしたらマメオヤジがおれの袖を引っぱった。
「なんだよ?」
マメオヤジが、今出てきたお堂の方を指さした。
おれたちが話を聞いたお坊さんに、背の高い外人が話しかけてる。
あっ!
「キースじゃねえか!」
「だろ。やっぱ新潟に住んでたんだな」
今度は、おれがマメオヤジの袖を門の陰まで引っぱった。
「なんで隠れるんだよ?」
「なんか怪しげじゃねえか、あいつ」
「そおかあ? 女子なんか、あれから大騒ぎだぜ」
「なんでこんな所にいるんだよ?」
「寺町探訪とか? あ、ひょっとしてこの寺に住んでんじゃねえの?」
「なんで寺なんかに住んでんだよ?」
「ほら、弟子入りとかじゃねえの? よくいるじゃん、そういう物好きな外人。ははは。そんなら小坊主だな。珍念とかいってな」
「どこの世界に金髪でロン毛の小坊主がいるんだよ」
「ひょっとしてカツラか?」
「なんで小坊主がロン毛のカツラかぶるんだよ」
「やっぱ、ツルツルじゃカッチョ悪りーからじゃねえの?」
「そんなら初めから弟子入りなんかしなきゃいいじゃねえか。寺の息子が嫌々坊主にされるわけじゃねえんだぜ。あ、そういえば天津がそうだよな」
「へ?」
「へ、じゃねえよ。天津は寺町の寺で生まれたんだけど、坊主になるのが嫌で先生になったって、自分で言ってたじゃねえか」
「あ、そうか。それって何ていう寺だっけ?」
「それは聞いても言わねえんだよ。おれたちが見にいったりすんのを恐れてんじゃねえの? それよりおまえ、天津がなんで坊主にならなかったか知ってるか?」
マメオヤジはくびを横に振った。
「おれがにらんだところ、絶対にあの頭の形のせいだぜ」
「なんで?」
「髪型でごまかしてるけど、中身はものすげー絶壁頭だぜ。ほら、昔の絵にあるだろ、墨だけで描いた絵」
「水墨画とか?」
「それそれ。その絵に、切り立った崖みたいな山が描いてあんだろ。あいつの頭、マジあんな感じだぜ」
「ははは」
マメオヤジは、天津が坊主になった姿を想像したのか、腹をかかえて笑いだした。
「あんな絶壁頭で説教されたら檀家も笑っちまうよな」
おれもつられて笑いながら言った。
おれたちが馬鹿話をしている間に、キースと坊さんの姿はどこにも見えなくなってた。
寺をまわり終えたころには、冬の午後はすっかり暮れ果ててた。
「どうする尚樹? もう少し、民家とかまわってみる?」
「とりあえず、今日のところはここまでにしようぜ」
マメオヤジは、まだ物足りなそうな顔をしていたけど、町はもう夕げのしたくが始まってた。
路地の奥からカレーライスの匂いがただよってきてる。
こんな家のチャイムを押して話を聞いたりしたら迷惑だろうし、それよりなにより、こっちの腹がへっちまった。
【次回投稿は11月12日の予定です】→柳都物語「第23回・『へ』の字の謎」
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