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2005.10.01

柳都物語  第20回・芸者学校(2)

【柳都物語 第20回・芸者学校(2)】

「どうしてですか?」
「今の小学生でも、テレビなんかで活躍してる子がおるじゃろ。そういう子は、学校のほかに、スタジオだのロケだの、歌や踊りのレッスンだので、目が回るような生活をしておるんじゃないかな。当然、自分の時間はほとんど持てないことになる。きみらは、そういう子供タレントが不幸な日々を送っていると思うかな?」

「でも、タレントと芸者さんじゃ、全然違うんじゃないですか」
「いやいや。そもそも、今のテレビタレントや歌手のルーツが、芸者じゃよ。実際、昔は芸者歌手といって、芸者出身のレコード歌手が何人もおったからの。市丸に赤坂小梅、そうそう、『東京音頭』を歌っていた小唄勝太郎なんかは、新潟の沼垂(ぬったり)出身じゃ。
 それこそ、テレビもラジオも無かった時代では、芸者が、今のテレビタレントと同じ役割をしておった。彼女たちの芸を見るために、客はお座敷という舞台に通った。まさしく『芸能人』じゃないかな。中でも売れっ妓芸者ともなれば、ブロマイドがつくられるほどじゃった。
 大畑小に通っている芸者の卵たちは、そうしたスターのそばで小間使いのようなことをしているわけじゃ。毎日憧れのスターを目の前で見て、スターのそばで働くことを誇りに思い、そして自分もいつかはそういうスターになりたいと願う。今のタレントの卵たちと少しも変わらんのじゃないかな。自分の身を嘆いたり嫌々やっているような子は、ひとりもおらんかった。
 実際、早い時間にお座敷がかかると、置屋から学校に呼びに来るんじゃがな。つまり、お座敷がかかったから早退させますというわけじゃ」
「そんなに早くからお酒飲んでたんですか?」
「なんの。朝からやっとるお座敷もあったぞ。なにしろ売れっ妓芸者は、夜のお座敷はスケジュールがいっぱいでつかまらんからの。それで朝呼ぶんじゃ」
「よく朝からお酒飲みになんか来れますよね。家の人、何にも言わないのかしら?」
料亭・鍋茶屋 料亭・行形亭 「なんの。朝から来るのはまだマシなほうじゃ。中には『居続け』と言って、料亭に泊まりこんで何日も遊んでいる者もおった。そうした連中には朝も夜もありゃせんわ。つきあわされる芸者のほうが大変じゃ。
 で、昼間からお座敷がかかると、置屋から学校に呼びに来る。そんなときの彼女たちの誇らしげな顔といったらなかったな。どんなもんだ、自分は売れっ妓だぞとばかりにな。もちろん売れっ妓なのは姐さんの芸者で、大畑小に通っているような子は、おまけみたいにして付いていくだけじゃったがの。
 だいたい、襟足におしろいを残して学校に来るのも、前の晩にお座敷がかかったことを自慢したいからみたいじゃったしのう」
「でも、そんな早退、よく学校が認めましたよね」
「まあ、生徒の半分が花街関係の子供じゃったからな。認めなかったりしたら、父兄と軋轢が起こっていたかもしれんな。それに彼女たちは、将来芸者になることが決まっている身なんじゃから、そっちの修行の方が大事だということを、先生方も分かっておったということじゃよ」
「なんか、芸者学校っていうか、芸能人学校って感じだな」
「ほんと、堀越みたいね」
「何事もな、昔の人の暮らしを、今の目からだけ見てしまうと、昔の人たちが、本当はどんな気持ちで暮らしていたかを見誤ってしまうこともある。きみたちは今、不幸か?」
 おれたちは首を横に振った。
「不幸だなんて言ったら、きっと罰があたります。世界には学校にも行けない子供たちがいっぱいいるんですから」
「そうじゃろ。しかしな、今から何十年後かの小学生が、きみらの暮らしを学校で習って、昔の小学生はこんな可哀相な日々を送っていたのかという感想を持ったとしたら、きみらはどう思う?」
 なるほどなあ。
 やっぱり年寄りの話は深いぜ。
 奈美は、一生懸命ノートに何か書きこんでた。
 話がマジメになったんで退屈したのか、マメオヤジが何か言いたそうに身を乗りだした。
 また変なこと聞くんじゃねえだろうな。
 じいちゃんもその気配を察したのか、ひとつ咳払いをすると話を変えた。
「そうそう、そういえば信吉が妙なことを言っておった。なんでも、学校でヘンテコな地震があったそうじゃな? そのことを聞かせてくれんかな」
 おれたちは、口々にあの不思議な地震の話をした。
 大畑小のほか、湊小と舟栄中で地震があったこと。すぐ近くのほかの学校は揺れなかったこと。逆に、学校は何ともなくて家が揺れたやつがいたこと。
 眉根にしわをよせて聞いていたじいちゃんは、テーブルの赤鉛筆を取ると、さっきの地図に×印を3つ書き入れた。大畑小、湊小、舟栄中。
「その、家だけ揺れてって子の住所は?」
「たしか、窪田町だったと思います」
「窪田町といっても、いささか広うござんす、だな。7丁目まである。何丁目じゃ?」
 おれたちは顔を見合わせて首を横に振った。
「そういえば、杉下のマンションも揺れたってよ」
「その子の番地は?」
「たしか、東中通りです。新築だからこの地図には載ってないし………。どのへんだっけ?」
「ねえ、もっとよく調べてみない?」
 奈美が言った。
「何をだよ」
「地震のことよ。ほら、1学期の総合学習でやったじゃない。新潟地震の調査」
「そうか。あんときみたいに、町の人に地震のことを聞いてまわろうってわけか」
「そうよ。それで、揺れた場所がわかったら、この地図に印を付けてくのよ」

【次回投稿は10月15日の予定です】→柳都物語「第21回・地震調査(1)

緑亥館通信「柳都物語・第20回について
物産コーナー「『第20回・芸者学校(2)』の巻

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