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2005.06.25

柳都物語  第13回・ALT

【柳都物語 第13回・ALT】

 金曜日。
 金曜の時間割は、3,4時間目が総合学習になってる。
 総合学習ってのは、正確には「総合的な学習の時間」って言うらしいけど、その名のとおり、いろんなことをやる時間だ。

 基本的には何をやってもいいみたいなんだけど、そういわれるとかえって先生も困るみたいで、いちおう「国際理解」「情報」「環境」「福祉・健康」「地域」「横断的学習」なんていう例があげられてるみたいだ。
 理絵にも話したように、昭和39年に起こった新潟地震のことを調べたこともある。
 これは「地域」ってことになるんだろうな。
 でも、やっぱ1番楽しいのは、野外観察みたいなときだ。
 ジャンルで言うと「環境」?
 西海岸公園で生態系調査みたいなことをやったけど、あれってほとんど遊びと変わんねえからな。
 まあそういった感じで、総合学習の時間ってのは、算数なんかよりはずっと気楽な時間なんだ、普通は。
 でも、今日の総合学習は少し気が重かった。
 ALTが来る日だったからだ。
 ALTってのは、アシスタント・ランゲージ・ティーチャーのことで、つまりは英会話の先生だ。
 もちろん外人。
 こいつが月に1回か2回、金曜にやって来る。
 そしてその日は、2時間の総合学習のうちの1時間が英会話の授業になるってわけ。
 うちの母親なんか、大畑小で英会話の授業があるって聞いて、「英語」って科目が時間割にあるもんだと勘違いしてたけど、そうじゃなくて、あくまで総合学習の中の「国際理解」ってことで、英会話なんかをやることになってるんだ。
 で、うちの学校に来るALTなんだけど、これがブレンダっていう陽気なアメリカ人で、この女が異常なくらいハイテンションなんだ。
 よくテレビショッピングなんかに出てくるだろ、エアロビのインストラクター。
 あんなノリだぜ。
 さすがにエアロビの格好はしてないけどな。
 みんなこのテンションに巻きこまれて、クラス中がハイテンションになっちまう。
 おれみたいにシャイな人間にとって、そういう空気は恥ずかしくってしょうがない。
 よくもまあ、コテコテの日本人の顔して「オー・ノー」なんて言えるよな。
 しかも両手を広げてだぜ。
 バカじゃねえのか。
 そんなわけで、英会話の時間、ずっとテンションが低いのは、おれと天津くらいなもんだ。
 借りてきた猫って言葉があるけど、英会話の時間の天津はまさにそれだ。
 ブレンダに話を振られるのを恐れてビクビクしる。
 いつだったか、「おれは英語ができないから小学校の教師になったんだ」って言ってたくらいだもんな。
 ALTってのは、あくまで「アシスタント」なんだから、本当は天津がリードして授業を進めなきゃなんねえはずだろ。
 それが、いちばんおとなしい生徒になっちまうんだからな。
 校長に見られたらまずいんじゃねえの?
 それにしてもブレンダは、1時間目は3年、2時間目が4年、そして3時間目におれたち5年、そのあと4時間目に6年も教えるわけだから、あのテンションを4時間続けてるってわけだ。
 こっちは、1時間授業受けただけでいい加減ぐったりしてるってのに。
 ひょっとしてあの女、1日中あのテンションなのか?
 つくづく、アメリカ人ってすげえよな。

【資料画像】DEX社「フォト満タン」より  扉が開いて天津が入ってきた。
 クラス中が「あれ?」って顔をした。
 いつもなら、ブレンダが扉をバーンと開けて、「ハーイ!! エブリバディ!!」って飛びこんでくるんだ。
 その後ろから、天津が付き人みたいにして入ってくる。
 ところが今日は、天津が1人で堂々と入ってきて教卓の前に立った。
「大変残念なお知らせがある。ブレンダ先生は、おうちの事情でアメリカに帰られてしまった。急な話で、挨拶もできずに帰国しなければならないことを、みんなに詫びておられた」
 教室に、がっかりしたような、ほっとしたような空気が広がった。
「というわけで、今日から新しいALTの先生が来てくださることになった。ミスター・サザーランド」
 天津が扉の向こうに声をかけた。
 身をかがめながら教室の扉をくぐって、大男が入ってきた。
 真っ黒いタートルネックに黒のジーンズ。
 長い金髪。
【資料画像】DEX社「フォト満タン」より  そいつが天津の隣に立って、こっちを向いた。
 ガタッ。
 おれは椅子から半分立ちあがってた。
 教室中の目が集まる。
「なんだ、井沢? まさかおまえ、またひと目ぼれじゃないだろうな?」
 教室がどっとわいた。
 おれはのろのろと座り直しながら、外人の顔から目が離せなかった。
 外人は、おれの顔を見てにっこりと笑った。
 間違いなく、あいつだ。
 おととい西大畑公園で、おれに声をかけてきた外人!
 いったいどうなってんだよ。
 思わず理絵を振り向いたけど、理絵は普通の顔で教卓の外人を見ている。
 早川堀の巫女は理絵の姉だったけど、まさかこの外人が兄貴ってことはないよな?
 それじゃ、2人に堀がどこへつながっているか聞かれたのは全くの偶然ってことか?
 おれは、堀の行き先を聞かれる運命に生まれてきたってでもいうのかよ!

【次回投稿は7月9日の予定です】→柳都物語「第14回・屋上の会談

緑亥館通信「柳都物語・第13回について
物産コーナー「『第13回・ALT』の巻

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