« 柳都物語  第9回について | トップページ | 柳都物語  第10回について »

2005.05.14

柳都物語  第10回・変な外人

【柳都物語 第10回・変な外人】

 放課後。
 5時間目に起きた地震が、理絵の言っていた災いの予兆なのか確かめたかったんだけど、理絵の姿はどこにも見あたらなかった。
「尚樹、だれ捜してんの?」
 まさか理絵を捜してるなんて言えないから、そのまま学校を出ちまった。

 いつもの通学路を通って西大畑公園まで来た。
 公園に入ってからは、きょろきょろとあたりを見まわしながら歩いた。また理絵が先回りしてるんじゃないかと思ったんだ。
 グランドに上って広場を見まわしてみたけど、理絵の姿はどこにも無かった。どんよりとした雲から、またぼたん雪が落ちてきた。
西大畑公園/堀  もう1度グランドの階段を下りると、おれは堀に落ちる雪を見ながら考えこんだ。
 おととい、この公園で理絵に新潟地震の話をされた。この新潟が、ああいう災いにまた襲われるかも知れないって言ってた。そのとたん、今日の地震だ。大した地震じゃなかったけど、これが大地震の前触れってやつなんじゃないのか? そういえば、あの中庭のミミズ! 大地震の前には、ナマズが暴れたり猫が家出したりするって聞いたことがある。あのミミズだって前触れなんじゃないのか?
 堀の水面には、ぼたん雪が、解けかけたシャーベットみたいに積もっている。その上に新しい雪が次々と落ちては、吸いこまれるようにして消えていった。おれは、足元の雪を丸めてシャーベットの浮島に投げた。
「チョーット、いーですかー?」
 いきなり頭の上から素っ頓狂な声が降ってきて、跳びあがりそうになった。
 振り向くと、真後ろに人が立っていた。
 げっ、外人。しかも、でけー。どうりで頭の上から声がしたはずだ。黒い毛糸の帽子から、長い金髪がのぞいている。水色の目。やせていて、ものすごく背が高い。黒いコートを着ているから、まるで夕方の影みたいだ。まだ若い男の外人だった。
「チョット、いいですか?」
 よくねえよ。外人が小学生に何の用だよ。
 新潟島をうろついてるこういう外人は、たいがいロシア船の船員だ。こいつ、人さらいじゃないだろうな?
 だいたいこの新潟島ってのは物騒なんだ。姉貴がいる寄居中学、当然おれも大畑小を卒業したら通うことになるんだけど、そこでは昔、学校帰りの女子生徒が北朝鮮にさらわれちまったことがある。まったく、超あぶねー港町だぜ。それにこのごろじゃ、日本人まで何をするかわからないってんで、先生もPTAも、ものすごくピリピリしてる。
 おれはあたりを見まわした。大人が何人かいる。みんな年寄りだけど。公園の表門を出たところには交番もある。大きな声を出せば聞こえる距離だ。
 いくらなんでも、こんな所で人さらいはないだろう。ってことは、ひょっとしてまた宗教? この公園、いつから宗教勧誘の名所になったんだ? おれは警戒心をあらわにして若い外人を見あげた。
「チョット、お聞きします。このカナールは、どこへつながっているのですか?」
「かなーる?」
 なんだそりゃ? 外人は、おれが呆然としているのを見ると、ポケットから手を出して目の前の堀を指さした。
新潟スタジアムとカナール  かなーるって、堀のこと? そうか、カナールか! 鳥屋野潟にある新潟スタジアム、別の呼び方だとビッグスワンっていって、アルビレックス新潟の本拠地だけど、その脇に、この堀の何倍もあるようなでっかい水路がある。それがカナールって呼ばれている。
 え? ってことはこの外人、この堀はどこにつながってるかって聞いてんのかよ! おれは嫌でも早川堀のことを思いだした。早川堀で、理絵の姉っていう巫女が、おれに同じことを聞いたんだ。
 ということはこの外人、理絵の姉の一味ってことか? でも、あの超和風の巫女と、この金髪外人が仲間だってのは、ちょっと妙だけどな。ひょっとして、宗教つながりか?
 外人は、くびをかしげてちょっと困ったような顔をした。おれがビックリした顔で見あげるばかりだったからだろう。たぶん、アホの子供と思ったに違いない。おれのことを気の毒そうな目で見て「サンキュー」と言うと、そのまま背を向けて、林のほうへ歩いていった。
 おれは、その細長い背中が林の中に見えなくなるまで、呆然と見送った。

 その夜、家での夕飯のとき、昼間の地震の話をすると、母親と姉貴がキョトンって顔をした。親父はまだ帰っていない。
「地震? なにそれ? そんなの無かったよ」
 姉貴の寄居中学は、大畑小から500~600メートルの距離だ。あの地震が無かったってわけない。
「体育だったんじゃねえの? 自分が揺れてたからわかんなかったんだろ」
「午後から体育なんてありませんでしたっ。おかあさんの所は?」
 母親は本町通りの会社で事務員をしている。こっちも、大畑小からは同じくらいの距離だ。
「無かった。あんたの学校、建てつけが悪いんじゃないの?」
 そんなバカな。ちょっと古いけど、鉄筋コンクリートだぜ。校長がいつも、日本で2番目にできた4階建て校舎だって自慢してる。天津は、古いことなんか自慢にならんって言ってるけど。
 あの地震だって、絶対に震度3くらいはあった。うちの学校だけ揺れたなんて、そんなこと絶対にありえねえ。
「それよりあんた、あしたの授業参観、恥かかせないでちょうだいね」
 母親が、箸の先でおれを指しながら言った。

【次回投稿は5月28日の予定です】→柳都物語「第11回・不思議な地震

緑亥館通信「柳都物語・第10回について
物産コーナー「『第10回・変な外人』の巻

|

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/58912/4108337

この記事へのトラックバック一覧です: 柳都物語  第10回・変な外人:

コメント

コメントを書く