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2005.04.30

柳都物語  第9回・予兆?

【柳都物語 第9回・予兆?】

 水曜日。
 昼休み。
 風邪のせいで体育館に遊びに出る気にもなれなくて、窓際の中村の席で話をしてた。
 天津に聞いてきたことを理絵に話さなきゃと思ってたんだけど、きのうはドッジボールであんなことがあって、結局話しそびれちまった。
 今日もなかなか話す機会がなかった。
 天津に「ひと目ぼれか」なんてからかわれたせいで、ほかのやつらがいる前じゃ理絵に話しかけづらかった。

 曇った窓ガラスに、麻美子たちがマンガを描いてる。
 暖房が効きすぎてるせいか、ガラスに描いた線は端から水滴になって流れた。
 キャラクターの顔がみんな泣き顔だ。
 それが気に入らなかったのか、麻美子が手のひらでガラスの絵を消した。
 窓の外が透けて見えた。
 理絵が独りでいる。
 中庭の花壇のわきだ。
 ここは2階だから、机の上に腰かけていたおれには見えたけど、中村たちは気づいてなかった。
「おい尚樹、どこ行くんだよ?」
「ちょっとな」
 滅多にないチャンスだ。
 廊下に出たら自然と小走りになった。
 でも、何でおれがこんな苦労しなきゃなんねえんだ?
 これじゃ、パシリじゃねえかよ。
 中庭に出ると、理絵はまだ花壇のわきにいた。
 ほかには誰もいない。
 この寒空じゃ当たり前だけど。
【資料画像】  理絵は花壇をじっと見おろしてる。
 秋までサルビアが咲いてた花壇には、枯れた茎と、ところどころに残る雪と、あとは土しか見えなかった。
 おれは早川堀でのことを思いだしてた。
 岸辺の河渡(こうど)に立って、ぼたん雪の落ちる水面をじっと見てた巫女。
 理絵の横顔は、ほんとあの時の巫女にそっくりだった。
「何見てんだよ?」
 おれの声に驚いた様子もなく、理絵は黙って花壇を指さした。
 最初は花壇の土が動いてるのかと思った。
 でも、たちまちその正体を覚ったおれは、思わず後ろに跳びすさった。
 ミミズだ。
 数え切れないほどのミミズが、花壇の土を這いまわってる。
 真冬だぜ。
 どういうことだ?
 おれは理絵の顔を見た。
 ひょっとしてこいつ、ミミズ使いか?
「どうしたんだよ、これ?」
 理絵はくびを横に振った。
 ぼたん雪がまた落ちてきた。
「それよりどうだった、天津先生?」
 おれは、土曜日に天津のじいちゃんを訪ねることになった話をした。
「どうする?」
「わたしも行く。西大畑公園で待ち合わせしよ」
「何時に?」
「9時は?」
「わかった」
「それじゃ、土曜日」
 それだけ言うと、理絵はくるりと背を向けて歩きだした。
「あ、あのさ」
「え?」
「悪かったな、きのうのドッジボール」
 理絵は、振り返りながら笑って首をふった。
 おれは、理絵の後ろ姿が昇降口の扉に消えていくのを見送った。
 おい。
 ミミズは、ほったらかしかい。
「へっへっへっへ」
 後ろから妙な声がしたんで振り向くと、マメオヤジだった。
「見ちゃいましたぜ、旦那。ナンパですかあ?」
「バカ言ってんじゃねえよ」
「何の話、してたんですう?」
「天津に言われた用だよ」
「ほんとですかあ?」
「もうチャイム鳴るぞ。それよりほら、あれ」
 おれは花壇のミミズを指さした。
「うわっ」
 おれはこのスキに昇降口へ歩きだした。

【資料画像】  5時間目の授業中、地震があった。
 といっても、そんなに大きな地震じゃない。
 マメオヤジのバカだけは机の下にもぐりこんだけど。
 他には大声をあげるようなやつもいなかった。
 それでも教室は少しざわついた。
 みんな天井を見あげたり、窓際のやつは、窓枠がカタカタと鳴るんで立ちあがったりしてた。
 窓に結んだ露のつぶが、ふるえながら流れるのが見えた。
「落ち着け。落ち着くんだ。たいした地震じゃない」
 そう言っている天津の声が、いちばんあわててた。
 揺れはすぐにおさまった。
 理絵を振り返ると、じっと窓の外を見てる。
 これが予兆ってやつなのか?
 やっぱり災いってのは、大地震なのか?
 そういえば、さっきのミミズだって、地震の前触れってこと?
 露の筋が流れた窓の向こうは、今日もねずみ色の空だ。
 そう思って見るからかも知れないけど、何かが起こりそうな色だった。
 遠くでまた雷が鳴っている。
 新潟では、雷は冬にいちばん多いんだ。

【次回投稿は5月14日の予定です】→柳都物語「第10回・変な外人

緑亥館通信「柳都物語・第9回について
物産コーナー「『第9回・予兆?』の巻

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