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2005.04.16

柳都物語  第8回・ドッジボール(2)

【柳都物語 第8回・ドッジボール(2)】

 内野からパスを受けると、理絵の足元を狙った。
 そんなに強いボールじゃなかったのに、理絵は取ろうともせずに下がりながら身をかわした。
 どんくさいとまでは言わないけど、これじゃとても天津の代わりにはなんねえな。
 内野はボールを拾うと、すぐにおれに戻してきた。
 理絵を直接狙おうって気は全然ないらしい。
 たしかに、内野が理絵を狙って外すと、外野はおれひとりだからボールデッドになっちまう可能性がある。
 でも、しょせんそれは建前で、理絵を仕留める悪役にはなりたくないってのが本音だろう。

【資料画像】DEX社「フォト満タン」より おれの攻撃ボールが外れて、また内野に戻る。
 内野からパスが来る。
 何度かそれが続くうち、男からも妙なヤジが飛ぶようになった。
「尚樹くーん、手元くるってんじゃねーのー?」
 くそっ。
 これ以上続けると、また何言われるかわかんねえぞ。
 そのとき、理絵のよけたボールを拾った山内が、直接理絵を狙うようなモーションをした。
 理絵があわてて後ろへ下がるのを見て、山内はおれに早いパスを送ってきた。
 理絵は振り返るのがやっとで、完全に逃げ遅れた。
 射程距離だ。
 おれは理絵の膝元を狙って、思い切り腕を振った。
 ボールが手から離れた瞬間、あっ、と思った。すっぽ抜けた。
 ボールは理絵の顔めがけて、真っ直ぐに飛んでく。
 よけろ!
 理絵の顔がボールに隠れた、と思ったら、ボールは突然急角度で下に曲がって、理絵の腹を直撃した。
 理絵は、ボールをかかえたまま真後ろに倒れた。
 理絵の腕からボールがこぼれて、コートに転がる。
 これで第1セット終了だけど、男からも歓声があがらなかった。
 理絵は、身体を折るようにして横倒しになったままだ。
 奈美を先頭に、女子どもが飛んできた。
「大丈夫、理絵ちゃん?」
 次々にかけられる声に、理絵は顔をしかめながらもうなずいてる。
 たぶん、息がつまってしゃべれないんだろう。
「ちょっと、尚樹。何もあんなボール投げることないじゃないの!」
 奈美が詰め寄ってきた。
「わざとじゃねえや」
 冗談じゃねえ。
 あんなフォークボールみたいな球、意識して投げれたら、6年にだって負けねえ。
 でも、何であんな変化したんだ?
 膝を狙って投げたボールが、すっぽ抜けたんだ。
 当然、ボールにはバックスピンがかかってたはずだ。
 それが急角度で下へ曲がった。
 フォークボール、いや、あの曲がり方は縦のスライダーみたいだった。
「菊池、保健室行くか?」
 天津の声に、理絵は首を振りながら身体を起こした。
「よし。おまえは少し脇で休んでろ。2セット目からはおれが入る」
 女子から歓声があがった。
【資料画像】DEX社「フォト満タン」より 第2セット。
 形勢は完全に逆転した。
 天津のパスは早い。
 しかも、手首のスナップだけで投げるノールックパスだ。
 獲物が近くにいる女子の胸元に、レーザービームみたいなパスが届く。
 内野の男どもは、イワシの群れみたいに右往左往するばかりだった。
 ようやくボールを拾った内野から、パスが来た。
「尚樹、魔球! さっきの魔球!」
 だから、あんな球、2度と投げられねえって。
 目のはしに、逃げ遅れてしゃがみこむ忍が見えた。
 ボールを手首に引っかけて横振りに振ると、ものの見事に忍の背中をヒットした。
 ボールは、忍の悲鳴といっしょに天井高く跳ねあがった。
「よし。斉藤、入れ」
 命をもらって内野に戻ろうとした斉藤の前に、奈美が立ちはだかった。
「尚樹、あんたが入んなさいよ」
「なんでだよ!」
「あんた、外野にばっかりいるから、ボールをぶつけられる人の気持ちがわかんないのよ。あんたが入りなさい」
「入れ!」
「入れ!」
 女子からシュプレヒコールが起こった。
 くっそー。
 おれは、奈美の前で固まっている斉藤を押しのけて内野に入った。
 それからが地獄だった。
 内野から外野から、鬼のような顔をした女子の十字砲火をあびた。
 男どもはおれをかばってくれるどころか、とばっちりを恐れて少しでもおれから離れようとしやがる。
 内野を走らされると、風邪の影響がもろにでてきた。
 思うように足が動かない。
 外野からの攻撃ボールをよけて、身体を切り返そうとしたとき、とうとう足をすべらせて手をついた。
 目のはしにセンターラインが見える。
 やばい、内野に拾われたらやられる!
 でも、顔を振り向けるのが精いっぱいだった。
 おれの目の前に、ボールを振りかぶった奈美の、ハンニャみたいな顔が、あった。
 おれが外野にしりぞくと、戦局は一気に悪化した。
 おれへの集中砲火を目のあたりにした男どもは、報復を恐れてひょろひょろ球しか投げやがらねえ。
 最後に内野に残ったのは、マメオヤジだった。
 こいつは逃げまわる専門で、ちっともボールを取ろうとしない。
 なにしろボールに背を向けて逃げるんだから、取れっこねえ。
 そのうえ、ボールをよけるとき、いちいち妙なポーズをするもんだから、ますます女子の怒りに油を注いだ。
「だめだこりゃ」
 外野の男子から、あきらめの声があがった。
 とうとう奈美に動きを読まれて、背中のど真ん中にヒット。
 女子から、勝どきの声があがった。
 マメオヤジは、つぶれたカエルみたいにうつぶせになったまま動かなかったけど、誰ひとり駆け寄るものはなかった。
 第3セットのことは、書きたくない。

【次回投稿は4月30日の予定です】→柳都物語「第9回・予兆?

緑亥館通信「柳都物語・第8回について」
物産コーナー「『第8回・ドッジボール(2)』の巻

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