柳都物語 第5回・堀
【柳都物語 第5回・堀】
「井沢くん」
「なんだよ」
「あなたは姉のご指名なの」
「おいおい」
「井沢くんに手伝ってもらえって」
「なんでだよ?」
「井沢くんには何かがあるって。今朝、井沢くんにはじめて会って、わたしもそうだって思ったよ。姉ほどじゃないけど、わたしもそういうの感じるから」
それにしては冷淡な態度だったよな、今朝は。
「だから、入信しなさいってか?」
「だから、宗教じゃないって」
「それじゃ、おまえらって何者? 何でおまえらが、その災いとやらを防ごうなんてするわけ?」
「知っちゃったからよ」
「いくら知っちゃったからって、どうやって小学生が、そんな地震みたいな天災を防ぐんだよ? 地震が来ますって触れてまわるのか?」
「そんなことしら、それこそ宗教だって思われるじゃない。だまってやるしかないでしょ」
「だまってやるのは結構だけど、おれまで巻き込むなよ」
「だって、転校してきたばっかりで、この街のこと、よくわからないんだもん。この街の子の助けが絶対に必要なの」
理絵は哀しそうな目をして、おれを見た。
この目つき、きっとこいつの必殺技だな。
「ね?」
「わかったよ」
おれがブスッと答えると、理絵は急ににっこりと笑った。やっぱり技だ。
空をねずみ色の雲が流れてく。
広場からは鳩の姿が消えていた。
かわりに、大きなカラスが3,4羽、レンガ敷きの上を歩いている。
梢にとまった1羽が、大きな声で鳴いた。
「それで、何をどうすりゃいいんだよ?」
理絵は、おれの顔をまじまじと見てから、にっこりと笑った。
「井沢くんて、すごくものわかりがいいのね。最初の様子じゃ、もっとずっとわかってもらえないかと思った」
理屈っぽいってよく言われるけどな。
それでもわからず屋じゃねえや。
「だから、どうするわけ?」
「それがわかればねー」
「なんだよ、それ」
「まだ、わからないのよ。どういう災いが起きるのか。でも、必ず予兆があるわ。それを絶対に見のがさないこと。予兆を感じるためには、災いが起きるってことを事前にわかってなくちゃだめなのよ」
「じゃ、とりあえず今んとこ、なんにもできないってわけ?」
「そんなことないわ」
「どっちなんだよ?」
「ねえ、新潟市の昔のことを良く知っている人いないかしら?」
「昔って、いつごろ? 江戸時代とか?」
「そんなに昔じゃない。堀のことを知りたいの。堀があったころだから、昭和の真ん中くらい? おとうさんとかは?」
「だめだめ。生まれたときにはもう堀なんて無かったって、何かのとき言ってた。でも、何で堀のことなんか知りたいんだ? おとといの早川堀と関係あんの?」
「よくわからない。今度の災いは堀に関係しているみたいだって姉は言ってたんだけど、井沢くんに堀が全部埋まっちゃってるって聞いてびっくりしてた」
「おいおい。災いが来るなんて言ってるわりには、不勉強なんじゃねえのか?」
「あはは」
「あはは、じゃねえよ」
「ねえ、天津先生は?」
「天津は、うちの親なんかよりずっと若いんだぜ。あの顔で、34だよ」
「それでも、学校の先生なら勉強して知ってるんじゃない?」
「どうかなあ。でも、寺町のお寺の生まれだって言ってたから、案外知ってるかもな」
「聞いてみてよ、堀のこと」
おれが? あんまし、おれ、そういうこと先生に聞きに行くようなタイプじゃないしなあ。奈美に聞いてもらえば? あいつなら学年委員だし、そういうの得意だぜ」
「伊崎さんとは、2人っきりで話せる機会がなかなかないのよ。まわりにいつも女の子がいて。すごい人望ね、彼女」
「人望っていうか、女子の親分だな、ありゃ」
風が強くなってきた。
墨絵みたいな雲が、色を変えながら走ってく。
「井沢くん。また明日にしましょ。今日はありがとう。風邪、早く治してね。これから、いろいろいっしょに行動するんだから、うつされたら困るわ」
「ああ」
理絵とは公園を出た先で別れた。
二葉町の高台へ抜ける小路の階段を、理絵の赤いランドセルが登ってった。
「これって、ナンパか?」
そんなわきゃねえよな。
【次回投稿は3月19日の予定です】→柳都物語「第6回・教務室」
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