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2004.11.14

夜の恐竜

 まっ赤な夕焼けでした。
 ミキオとタミノは、影まで赤く染めて坂道をくだっていました。
 二人の背中で、ランドセルがぱたぱたと揺れています。
「ねえ、ミキオ。恐竜の卵が空から降ってきた日のこと知ってる?」

「知らない」
「ある日、恐竜の卵が空から降ってきて、それで恐竜が地球に生まれたの」
「空から卵が降ってきたら、地面にぶつかって割れちゃうじゃないか」
「ばかね。恐竜の卵は固いのよ。こないだ博物館でさわってみたでしょ」
「あれは化石だから固いんだよ。そんなに固かったら、中から赤ちゃんが出てこれないじゃないか」
「じゃあ、固いんじゃなくて、ボールみたいにやわらかかったんだ。地面にぶつかっても、ボールみたいに跳ねて割れなかったのよ」
「ははは」
「あはは」
 二人は、恐竜の卵ボールがたくさん跳ねている景色を想像しておかしくなりました。

 次の日、学校を出たミキオとタミノは、白壁通りを抜けて帰ることにしました。
 白壁通りは、別にちゃんとした町名があるのですが、両側に白壁の蔵がずっと並んでいるので、町の人からは白壁通りと呼ばれていました。
 夕方の光が白壁をほかほかとあたためています。
「ほら、ここに立ってあのポストの右上あたりの壁を見てごらん」
「見てるけど」
「見えないかい?」
「ただの壁のシミじゃないの?」
「壁のシミには違いないけど、それが何かの形に見えるだろ」
「何の形? デタラメな形にしか見えない」
「ほら、ポストの方にくちばしが伸びて」
「?」
「コウモリみたいな翼が、右の上から斜めに広がっている」
「あっ」
「見えただろ、プテラノドン」

 その晩、タミノは夢を見ました。
 ぐんぐんと空へのぼっていきます。
 顔に風があたって、目をあいていられないほどです。
 何で私は飛んでいるんだろう?
 タミノは、いっしょうけんめい目をひらきました。
 鳥の後ろ頭が見えました。
 ものすごく大きな鳥です。
 なにしろタミノはその背中に乗っていたのですから。
 でもその鳥の頭には毛がありませんでした。
 頭だけでなく、そこからつづく首にも、タミノがつかまっている背中まで、ぜんぜん毛も羽根もはえていません。
 そのかわりに、革のボストンバックのような皮膚でおおわれています。
 そしてタミノは左右に広がる翼を見ました。
 コウモリの翼です。
「プテラノドン!」
 早くミキオに教えなきゃ。
 プテラノドンに乗って空を飛んだんだって、思い切り自慢できるわ。
 こんなときミキオはどこにいるんだろ。
 タミノはプテラノドンにしっかりとつかまりながら、いっしょうけんめい首をのばして地面をさがしました。
 砂浜がどこまでもつづいています。
 波打ちぎわに沿って、プテラノドンはグライダーのように滑空しています。
 やっと砂浜を動くものが見えました。
 動物の群のようです。
 群は、こちらへ向かって歩いてきます。
「サイかしら?」
 だんだん近づいてその姿がはっきりと見えました。
 サイではありません。
 鼻の先に短い角がありますが、頭の上にも二本、太くて長い角がのびています。
 首のまわりには、襟飾りが張りだしていました。
「トリケラトプス!」
 群の先頭に立つトリケラトプスのあたまの上に、太い角につかまって、少年が乗っています。
 少年はからだをゆらしながら、「ウォー、ウォー」と叫んでいます。
「ミキオだわ」
 ミキオはトリケラトプスに乗れて、とてもうれしいんだ。
 タミノは、自分もプテラノドンに乗っていることを教えたくて、空から手をふりました。
「ミキオー!」
 トリケラトプスの群がぐんぐんと近づいてきます。
 やっとミキオがこっちに気づきました。
 大きな目をひらいて手をふっています。
 とてもうれしそうです。
 タミノもいっしょうけんめい手をふりました。
 そのとき、プテラノドンが叫んだのか、トリケラトプスがほえたのか、ものすごい音が大地にひびきわたりました。
 がくんと空がゆれて、からだの上下が逆さまになりました。
 落ちる!

 タミノはベッドから転がり落ちました。
 目覚まし時計がジリジリと鳴っています。
 まだ頭がぐるぐるとまわっているようです。
 カーテンを透いて朝の光が、部屋をほの明るくしていました。
 カーテンレールの上にプテラノドンがとまってこっちを見ています。
 ミキオにもらったオモチャのプテラノドンです。
「あいつに乗ったんだわ」
 そうだ、ミキオに教えなきゃ。

 その朝、坂道の下でミキオが待っていました。
「おはよう」
「おはよう」
 二人は並んで坂道をのぼりました。
「ねえ、ミキオ。あたし、プテラノドンに乗ったのよ」
「えっ?」
「プテラノドンに乗って、砂浜をグライダーみたいに飛んだんだ」
「知ってるよ」
「えっ?」
「だって、タミノはぼくを見て手をふっていたじゃないか」
「ミキオはとてもうれしそうだった」
「もちろんさ。だってこいつに乗ったんだぜ」
 ミキオはポケットにつっこんでいた手を出しました。
 その手には、トリケラトプスの小さなオモチャがのっていました。
「どんな気分だった?」
「最高さ。でもタミノもすごいじゃないか。何しろ、プテラノドンに乗って空を飛んだんだから」
「少しこわかったけど、とってもおもしろかった」
「でも、手をふったとたんにタミノは消えちゃったよ」
「目覚まし時計が鳴ったのよ」
「タミノ、プテラノドン持ってきてる?」
「うん」
 タミノはポケットからプテラノドンを出しました。
 カーテンレールからタミノを見おろしていたやつです。
「明日の朝まで取りかえっこしない?」
「今夜はミキオがプテラノドンに乗るのね」
「うん。タミノはトリケラトプスに乗って砂浜を走るんだ。魚竜の跳ねるのが見えるよ」
「ねえ」
「ん?」
「なにも別々の恐竜に乗ることはないんじゃない? あんなに大きいんだもの」
「二人乗り?」
「そう」
「でも、どうやって」
 タミノは、プテラノドンをミキオにわたしました。
「どっちもミキオが持ってて。今夜はプテラノドンで迎えにきて。あの砂浜で待ってる」
「だいじょうぶ? トリケラトプスに踏みつぶされるよ」
「だから今夜はトリケラトプスを引き出しにしまっておくの」
「わかった。かならず迎えにいくよ」
「うん。待ってる」

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