夜の恐竜
まっ赤な夕焼けでした。
ミキオとタミノは、影まで赤く染めて坂道をくだっていました。
二人の背中で、ランドセルがぱたぱたと揺れています。
「ねえ、ミキオ。恐竜の卵が空から降ってきた日のこと知ってる?」
「知らない」
「ある日、恐竜の卵が空から降ってきて、それで恐竜が地球に生まれたの」
「空から卵が降ってきたら、地面にぶつかって割れちゃうじゃないか」
「ばかね。恐竜の卵は固いのよ。こないだ博物館でさわってみたでしょ」
「あれは化石だから固いんだよ。そんなに固かったら、中から赤ちゃんが出てこれないじゃないか」
「じゃあ、固いんじゃなくて、ボールみたいにやわらかかったんだ。地面にぶつかっても、ボールみたいに跳ねて割れなかったのよ」
「ははは」
「あはは」
二人は、恐竜の卵ボールがたくさん跳ねている景色を想像しておかしくなりました。
*
次の日、学校を出たミキオとタミノは、白壁通りを抜けて帰ることにしました。
白壁通りは、別にちゃんとした町名があるのですが、両側に白壁の蔵がずっと並んでいるので、町の人からは白壁通りと呼ばれていました。
夕方の光が白壁をほかほかとあたためています。
「ほら、ここに立ってあのポストの右上あたりの壁を見てごらん」
「見てるけど」
「見えないかい?」
「ただの壁のシミじゃないの?」
「壁のシミには違いないけど、それが何かの形に見えるだろ」
「何の形? デタラメな形にしか見えない」
「ほら、ポストの方にくちばしが伸びて」
「?」
「コウモリみたいな翼が、右の上から斜めに広がっている」
「あっ」
「見えただろ、プテラノドン」
*
その晩、タミノは夢を見ました。
ぐんぐんと空へのぼっていきます。
顔に風があたって、目をあいていられないほどです。
何で私は飛んでいるんだろう?
タミノは、いっしょうけんめい目をひらきました。
鳥の後ろ頭が見えました。
ものすごく大きな鳥です。
なにしろタミノはその背中に乗っていたのですから。
でもその鳥の頭には毛がありませんでした。
頭だけでなく、そこからつづく首にも、タミノがつかまっている背中まで、ぜんぜん毛も羽根もはえていません。
そのかわりに、革のボストンバックのような皮膚でおおわれています。
そしてタミノは左右に広がる翼を見ました。
コウモリの翼です。
「プテラノドン!」
早くミキオに教えなきゃ。
プテラノドンに乗って空を飛んだんだって、思い切り自慢できるわ。
こんなときミキオはどこにいるんだろ。
タミノはプテラノドンにしっかりとつかまりながら、いっしょうけんめい首をのばして地面をさがしました。
砂浜がどこまでもつづいています。
波打ちぎわに沿って、プテラノドンはグライダーのように滑空しています。
やっと砂浜を動くものが見えました。
動物の群のようです。
群は、こちらへ向かって歩いてきます。
「サイかしら?」
だんだん近づいてその姿がはっきりと見えました。
サイではありません。
鼻の先に短い角がありますが、頭の上にも二本、太くて長い角がのびています。
首のまわりには、襟飾りが張りだしていました。
「トリケラトプス!」
群の先頭に立つトリケラトプスのあたまの上に、太い角につかまって、少年が乗っています。
少年はからだをゆらしながら、「ウォー、ウォー」と叫んでいます。
「ミキオだわ」
ミキオはトリケラトプスに乗れて、とてもうれしいんだ。
タミノは、自分もプテラノドンに乗っていることを教えたくて、空から手をふりました。
「ミキオー!」
トリケラトプスの群がぐんぐんと近づいてきます。
やっとミキオがこっちに気づきました。
大きな目をひらいて手をふっています。
とてもうれしそうです。
タミノもいっしょうけんめい手をふりました。
そのとき、プテラノドンが叫んだのか、トリケラトプスがほえたのか、ものすごい音が大地にひびきわたりました。
がくんと空がゆれて、からだの上下が逆さまになりました。
落ちる!
*
タミノはベッドから転がり落ちました。
目覚まし時計がジリジリと鳴っています。
まだ頭がぐるぐるとまわっているようです。
カーテンを透いて朝の光が、部屋をほの明るくしていました。
カーテンレールの上にプテラノドンがとまってこっちを見ています。
ミキオにもらったオモチャのプテラノドンです。
「あいつに乗ったんだわ」
そうだ、ミキオに教えなきゃ。
*
その朝、坂道の下でミキオが待っていました。
「おはよう」
「おはよう」
二人は並んで坂道をのぼりました。
「ねえ、ミキオ。あたし、プテラノドンに乗ったのよ」
「えっ?」
「プテラノドンに乗って、砂浜をグライダーみたいに飛んだんだ」
「知ってるよ」
「えっ?」
「だって、タミノはぼくを見て手をふっていたじゃないか」
「ミキオはとてもうれしそうだった」
「もちろんさ。だってこいつに乗ったんだぜ」
ミキオはポケットにつっこんでいた手を出しました。
その手には、トリケラトプスの小さなオモチャがのっていました。
「どんな気分だった?」
「最高さ。でもタミノもすごいじゃないか。何しろ、プテラノドンに乗って空を飛んだんだから」
「少しこわかったけど、とってもおもしろかった」
「でも、手をふったとたんにタミノは消えちゃったよ」
「目覚まし時計が鳴ったのよ」
「タミノ、プテラノドン持ってきてる?」
「うん」
タミノはポケットからプテラノドンを出しました。
カーテンレールからタミノを見おろしていたやつです。
「明日の朝まで取りかえっこしない?」
「今夜はミキオがプテラノドンに乗るのね」
「うん。タミノはトリケラトプスに乗って砂浜を走るんだ。魚竜の跳ねるのが見えるよ」
「ねえ」
「ん?」
「なにも別々の恐竜に乗ることはないんじゃない? あんなに大きいんだもの」
「二人乗り?」
「そう」
「でも、どうやって」
タミノは、プテラノドンをミキオにわたしました。
「どっちもミキオが持ってて。今夜はプテラノドンで迎えにきて。あの砂浜で待ってる」
「だいじょうぶ? トリケラトプスに踏みつぶされるよ」
「だから今夜はトリケラトプスを引き出しにしまっておくの」
「わかった。かならず迎えにいくよ」
「うん。待ってる」
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