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2004.11.07

権助とカッパ

 長い夏の日も暮れようとしておりました。
 権助は林の道をたどっておりました。
 木々のこずえからは、一日を鳴き暮らしたヒグラシの声がまだ聞こえております。
 そよりとも風のない夕暮れです。
 権助はすっかりのどが乾いてしまいました。
 さっきから林のむこうで、かすかな水音が聞こえております。
 権助は水をもとめて林に分け入っていきました。

 汗だらけになってようやく林を抜けると、思いもかけない広い河原に出ました。
 権助は大よろこびで川に顔をつけて、川の水を一斗も飲みました。
 腹をふくらませた権助が顔を上げると、川の中に突っ立った大岩の上に、なにやら動くものが見えました。
 権助は目をこすって何べんも見なおしましたが、どうしてもそれは河童でした。
 しかもその河童は岩の上で、ハアよいよいと踊りをおどっているのでした。
「むむ。どう見ても河童が岩の上で踊りをおどっているだ」
 河童のことは話には聞いておりましたが、実物を見るのははじめてでした。
 頭のてっぺんにしろじろとした皿をのせて、背中にはスッポンのような甲羅をしょっております。
 口の先がとんがって、からだは緑色でした。
 ひらひらと踊る手の指には水かきがついております。
 権助はしばらく口をあいて河童の踊りを見ておりました。
 すると気持ちよさそうに踊っていた河童と権助の目が合いました。
 河童は踊りながら権助に手まねきをしました。
 そうして自分の足もとの岩を指さしております。
 どうやら権助に、岩の上にあがっていっしょに踊りをおどれと言っているようでした。
 権助は村の盆踊りの花形でした。
 さっきから河童の踊りを見ていて、からだがむずむずしておりました。
 権助はばしゃばしゃと川に入ると、すいすい泳いで大岩に着きました。
 岩にはい上がる権助を、河童が引っぱってくれました。
 河童の手はひやひやと冷たくて、少しぬるぬるしました。
 権助が岩に上がると、河童はまたいきなり踊りだしました。
 水かきのついた手のひらをひらひらと泳がせながら、アアこりゃこりゃと気持ちよさそうに踊っております。
 権助もつられて踊りだしました。
 最初はうまく踊れなかったのですが、川を渡る風に吹かれるうちに、からだがひとりでに踊りだしました。
 権助は夢中で踊りました。
 岩の上から見る景色がくるくると回ります。
 一人と一匹は時をわすれて踊りました。
「ああええ気持ちじゃ。それでも河童どん。これで鳴り物が入ったら言うことはないんじゃが」
 すると河童はカクカクとうなずくと、林の方を指さしました。
 見ると林がガサガサと動いて、大きなタヌキが河原にでてきました。
 大ダヌキは豆しぼりの鉢巻きをしめておりました。
 そうして水ぎわに腰をおろすと、腹づづみを打ちはじめました。
 よく冴えたいい音色が河原にひびきました。
 権助と河童はまた夢中で踊りはじめました。
 岩の上をまわりながら、ハアよいよいと踊りました。
 手はひとりでに舞い、足はひとりでに踏んで、アアこりゃこりゃと踊りました。
 タヌキの腹づつみも、ポコポコポンと冴えわたりました。
 やがて河原はすっかり日が暮れておりました。
 まっ白なお月さまが、河原の天井に出ております。
 河童の頭の皿に月の光がさして、ぼんぼりのように灯りました。
 ぼんぼりは見わたすかぎりの川の上で灯っておりました。
 いつしか岩という岩の上に河童があがって、ハアよいよいと踊りをおどっているのでした。
 河童のお皿のぼんぼりは、川に浮かぶホタルのようでした。
 そして月の河原には、林からあらゆる生き物や化け物が出てきて、アアこりゃこりゃと踊りをおどっておりました。
 河原の夜はしんしんと更けてゆきます。

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