るりいろ
雨上がりの朝でした。
泥んこ道の水たまりに、六月の青い空がうつっていました。
雨をすった黒い板塀が、ずっと向こうまでつづいています。
タミノは、水たまりを踏まないように、ぴょんぴょん跳びはねながら歩いていました。
跳ねるたびに、背中のランドセルがコトコト音をたてます。
「タミノ」
急に声をかけられたので、タミノはびっくりしました。
水たまりを踏まないように、ずっと下を見て歩いていて、もういつもの角まで来たのに気づかなかったのです。
いつもの角で待っていたのはミキオでした。
「おはよう」
「おはよう」
ミキオの髪に朝の光があたって、天使の輪のように見えました。
*
「るり色って言うんだって」
「るりいろ?」
「ミキオのビー玉の色」
「ああこれ」
ミキオは、上着のポケットからビー玉を出しました。
それは、濃い青色をしていました。
「不思議な色だよね。こうしてお日さまにかざしても透けて見えないんだ」
「あたしにも見せて」
タミノはミキオのまねをして、ビー玉をお日さまにかざしてみました。
しんしんと濃い青色は、お日さまをすっかりかくして全然向こうが透けて見えません。
「これがるり色」
「るり色なんてはじめて聞いた」
「濃い青色のことをるり色って言うんだって。お母さんが言ってた。宝石の色だって」
「だってこれビー玉だよ」
「ビー玉だけど、宝石の色とおんなじなのよ」
「ほかにもあるかも知れないね」
「ほかにも?」
「るり色さ」
「るり色のビー玉?」
「それはこれひとつさ。ビー玉じゃなくて、るり色のなにか」
「なにかって?」
「それを探すんじゃないか」
もう学校が見えてきました。
去年完成したばかりの鉄筋コンクリートの校舎に、朝の光がさしています。
グランドにできた水たまりが、鏡のように光っていました。
「じゃあ帰り道に探そう」
「うん」
*
晴れた六月の空に、終業のチャイムがのぼっていきます。
校舎から、たくさんの子供たちが飛びだしてきました。
ミキオとタミノもその中にいます。
「どっから探す?」
「そうだな。とりあえず………」
ミキオは、いつもの通学路と住宅街へ入る小道をこうごに指さしてから、
「こっちだ」
小道の方にかけだしました。
「待ってよ。走ったら探せないよ」
小道を入ると、そこは古くからの屋敷町で、高い生け垣に囲まれた家並みがつづいていました。
生け垣の向こうにはマツやカシの大木がそびえ、小道に大きな影を落としています。
「あっ。あった」
「えっ。もうあったの?」
タミノが指さしたのは、お屋敷の門にこんもりとしげったアジサイの花でした。
「でもちょっと薄いか」
「全然薄いよ」
ミキオはアジサイのそばにビー玉をかざして見せました。
「ほんとだ」
しばらく歩くと、
「あっ。あった」
こんどはミキオが叫んでかけだしました。
「ほら」
ミキオは、タミノをふりかえって、ビー玉をかざして見せました。
そこは、屋敷町のはずれにある小さな床屋さんの前でした。
赤と白と青のねじりんぼうみたいな看板が、くるくると回っていました。
「この青いやつ。るり色に似てない?」
「似てない」
タミノは、るり色を床屋さんの看板とくらべられて、大いに不満でした。
*
「全然ないね」
「やっぱり、るり色はこいつだけか」
二人は、屋敷町をぬけて公園も探しまわりましたが、るり色は見つかりませんでした。
六月の長い日もかたむきかけています。
「あしたまた探そう」
「そうだね」
ミキオはビー玉を目の高さにかざしました。
タミノもビー玉をのぞきこみました。
「あっ。あった」
「え? どこどこ」
「タミノの目の中」
「なんで?」
「ビー玉がうつってる」
「なーんだ」
「ぼくの目の中も見てよ」
ミキオはもういちどビー玉を目の高さにかざしました。
「あった」
ミキオの目の中にも、るり色はありました。
◇物産コーナーはこちらです◇
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/58912/1717611
この記事へのトラックバック一覧です: るりいろ:

緑亥館物産コーナー
コメント