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2004.10.19

るりいろ

 雨上がりの朝でした。
 泥んこ道の水たまりに、六月の青い空がうつっていました。
 雨をすった黒い板塀が、ずっと向こうまでつづいています。
 タミノは、水たまりを踏まないように、ぴょんぴょん跳びはねながら歩いていました。
 跳ねるたびに、背中のランドセルがコトコト音をたてます。
「タミノ」
 急に声をかけられたので、タミノはびっくりしました。

 水たまりを踏まないように、ずっと下を見て歩いていて、もういつもの角まで来たのに気づかなかったのです。
 いつもの角で待っていたのはミキオでした。
「おはよう」
「おはよう」
 ミキオの髪に朝の光があたって、天使の輪のように見えました。

「るり色って言うんだって」
「るりいろ?」
「ミキオのビー玉の色」
「ああこれ」
 ミキオは、上着のポケットからビー玉を出しました。
 それは、濃い青色をしていました。
「不思議な色だよね。こうしてお日さまにかざしても透けて見えないんだ」
「あたしにも見せて」
 タミノはミキオのまねをして、ビー玉をお日さまにかざしてみました。
 しんしんと濃い青色は、お日さまをすっかりかくして全然向こうが透けて見えません。
「これがるり色」
「るり色なんてはじめて聞いた」
「濃い青色のことをるり色って言うんだって。お母さんが言ってた。宝石の色だって」
「だってこれビー玉だよ」
「ビー玉だけど、宝石の色とおんなじなのよ」
「ほかにもあるかも知れないね」
「ほかにも?」
「るり色さ」
「るり色のビー玉?」
「それはこれひとつさ。ビー玉じゃなくて、るり色のなにか」
「なにかって?」
「それを探すんじゃないか」
 もう学校が見えてきました。
 去年完成したばかりの鉄筋コンクリートの校舎に、朝の光がさしています。
 グランドにできた水たまりが、鏡のように光っていました。
「じゃあ帰り道に探そう」
「うん」

 晴れた六月の空に、終業のチャイムがのぼっていきます。
 校舎から、たくさんの子供たちが飛びだしてきました。
 ミキオとタミノもその中にいます。
「どっから探す?」
「そうだな。とりあえず………」
 ミキオは、いつもの通学路と住宅街へ入る小道をこうごに指さしてから、
「こっちだ」
 小道の方にかけだしました。
「待ってよ。走ったら探せないよ」
 小道を入ると、そこは古くからの屋敷町で、高い生け垣に囲まれた家並みがつづいていました。
 生け垣の向こうにはマツやカシの大木がそびえ、小道に大きな影を落としています。
「あっ。あった」
「えっ。もうあったの?」
 タミノが指さしたのは、お屋敷の門にこんもりとしげったアジサイの花でした。
「でもちょっと薄いか」
「全然薄いよ」
 ミキオはアジサイのそばにビー玉をかざして見せました。
「ほんとだ」
 しばらく歩くと、
「あっ。あった」
 こんどはミキオが叫んでかけだしました。
「ほら」
 ミキオは、タミノをふりかえって、ビー玉をかざして見せました。
 そこは、屋敷町のはずれにある小さな床屋さんの前でした。
 赤と白と青のねじりんぼうみたいな看板が、くるくると回っていました。
「この青いやつ。るり色に似てない?」
「似てない」
 タミノは、るり色を床屋さんの看板とくらべられて、大いに不満でした。

「全然ないね」
「やっぱり、るり色はこいつだけか」
 二人は、屋敷町をぬけて公園も探しまわりましたが、るり色は見つかりませんでした。
 六月の長い日もかたむきかけています。
「あしたまた探そう」
「そうだね」
 ミキオはビー玉を目の高さにかざしました。
 タミノもビー玉をのぞきこみました。
「あっ。あった」
「え? どこどこ」
「タミノの目の中」
「なんで?」
「ビー玉がうつってる」
「なーんだ」
「ぼくの目の中も見てよ」
 ミキオはもういちどビー玉を目の高さにかざしました。
「あった」
 ミキオの目の中にも、るり色はありました。

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