権助とカメ
うらうらとした春の日でした。
お日さまはのんのんと照っております。
すっかりぬくんだ土手のうえには、つくしがいくつも顔を出しておりました。
田んぼはレンゲの花ざかりです。
空では雲雀がちいちくとさえずっております。
あったかな田んぼ道を権助は気持ちよく歩いておりました。
すると道の向こうから、大きな亀が後ろ足で立って歩いてきました。
「やや。亀が立って歩いてくるだ」
権助は実にびっくりしました。
生まれてこのかた、亀は四つ足で這って歩くものとばかり思っていたからです。
「もしもし亀どん。おまえはいったいどうした料簡でそうして立って歩くだね」
亀ははあはあと肩で息をしながら答えました。
「わしは生まれてこのかた幾百年も四つ足で這って歩いておったが、どうにも飽いてしもうた。それでこの春からは立って歩くことに決めたんじゃが、なにしろどうにも歩きにくい」
亀はそう言うと、またはあはあと息をしました。
「亀どんや。おまえは甲羅が重すぎるのじゃないかね」
「むむ。それもある。なにしろ後ろにひっくり返りそうになって困る」
「亀どんや。おまえは足が短かすぎるのじゃないかえ」
「むむ。どうもそれが一番の難儀じゃ。いっこうに道のはかがいかなんで困る」
「おまえはすっかりくたびれておろうが。ここらでひと休みしたらよかろう」
「むむ。ここらでちっとひと休みするのは兎ときまっておるのじゃが、亀とて休まにゃやりきれんわ」
そこで亀は道ばたの切株に腰をかけようとしましたが、甲羅がじゃまで座れません。
「亀どんや。おまえは甲羅がじゃまのようだ。いっそ脱いでしまったらどうかね」
「むむ。そうしたいのは山々じゃが、なにしろわしらの甲羅は腹のほうまで回っておるで、そう無造作に脱ぎさしはならんのじゃ」
亀はなんとか切株に寄りかかろうとしましたが、つるりとすべってあおのけにひっくりかえってしまいました。
「ひっくりかえってしもうた。助けてけろ」
「そのまま休んでおればよかろう」
「そうはいかん。これは亀の本性で、ひっくりかえったら起きなおるまでやすめんのじゃ。助けてけろ」
権助はよっこらしょと亀を起こしてやりました。亀は腹ばいになって、しばらくはあはあと息をしておりましたが、
「やっぱり四つ足はええ」
としみじみ言いました。
権助もここでひと休みして弁当をつかうことにしました。
竹の子の皮のつつみを解くと大きなにぎりめしが二つ出てきました。
権助がにぎりめしより大きな口をあいてかぶりつこうとすると、亀がじっと権助の手元を見ておりました。
亀は権助のにぎりめしに目をすえて、よだれをだらだらと出しているのでした。
「亀どんや。わしのにぎりめしは二つあるきに、これを一つおまえにやろう」
「なんと。二つしかないものの一つをわしにくれると言うか。ぬしはなんと奇特な人間じゃ」
亀は大喜びでにぎりめしをもらいました。
一人と一匹がなかよくにぎりめしを食べおわると亀がいいました。
「ぬしにはいかい世話になった。海亀なら竜宮へつれていくところじゃが、わしは陸亀じゃでそれもならん。せめてぬしの行く先までわしの背にのっていけ」
そこで権助は亀の背にのせてもらいました。
ところが亀の歩みがあんまりのろいので、一町もいかないうちに日がかたむきかけました。
「亀どんや。わしは日暮れまでに庄屋さまへ着かねばならんのじゃが、これではとうてい着かんぞ」
それを聞いた亀は必死の形相で歩むのですが、どうにもはかがいきません。
権助と亀の脇をハサミムシが追い越していきました。
権助は亀が気の毒になりました。
「亀どんや。おまえはすっかりくたびれてしもうたようだ。こんどはわしが代わろう」
そう言うと権助は亀を背に負って矢のように走りだしました。
庄屋さまにはあっというまに着きました。
庄屋さまは権助が大きな亀を背負ってきたのを見て、これはめでたいと大へんに喜びました。
権助はほうびをたくさんもらいました。
亀は、帰るのが大儀だと言って、そのまま庄屋さまの池に飼われることになりました。
めでたし。めでたし。
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